道路交通法違反

酒気帯び・酒酔い運転(9)~「酒気帯び・酒酔い運転事実の証明には自白のほかに補強証拠を要する」を説明

 前回の記事の続きです。

酒気帯び・酒酔い運転事実の証明には自白のほかに補強証拠を要する

 刑事裁判において、検察官が犯罪事実を証明するためには、自白のほかに、その自白を証明する証拠(補強証拠)が必要とされています(憲法38条3項刑訴法319条2項)。

 そのため、裁判官が自白によっていかに合理的疑いを超える程度の確信を抱いたとしても、自白だけで被告人を有罪にすることはできません。

 道路交通法違反(酒気帯び運転・酒酔い運転)においても、自白のみでは有罪とされず、その自白を証明する証拠(補強証拠)が必要になります。

 道路交通法違反(酒気帯び運転・酒酔い運転)において、自白の補強証拠の関係について言及した以下の裁判例があります。

被告人の酒気を帯びていることの自白に対する補強証拠について言及した裁判例

広島高裁岡山支部判決(昭和49年11月5日)

 酒気帯び鑑識カードが被告人の酒気帯び運転事実の自白の補強証拠になるとした判決です。

 裁判所は、

  • 酒気帯び鑑識カードは、警察官が法第65条1項の酒気帯び運転禁止の規定に違反して車両等を運転するおそれがあると認めたとき、被検者の呼気を風船に吹き込ませて採取したうえ検査した結果を明らかにするものであるから、右検査が行われその結果が明らかにされた前記鑑識カードが存在することによって自動車運転の事実に関する被告人の自白は間接に補強されているものと解される

と判示しました。

被告人の自動車を運転したことの自白に対する補強証拠について言及した裁判例

 酒気帯び・酒酔い運転事実の証明には、被告人が酒気を帯びていることの自白に対する補強証拠のほか、被告人が運転をしたことの自白に対する補強証拠が必要になります。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和62年9月17日)

 裁判所は、

  • 右のような酒気帯び運転の事実については、被告人の自白がある場合でも、被告人が一定量以上の酒気を帯びていたことだけでなく、被告人がその自動車を運転したことについても補強証拠がなければ、有罪の認定をすることができず、また、有罪判決の理由としても、証拠の標目中に、自白のほかに右補強証拠を掲げることが必要であると解される

と判示しました。

仙台高裁判決(昭和62年11月12日)

 裁判所は、

  • 酒酔い運転の事実を認定して有罪とするに当たっては被告人が自白している場合、被告人が酒酔い状態にあった点だけでなく、運転行為についても、自白のほかに補強証拠が存在することを要する
  • 本件にあって、司法巡査作成の「酒酔い鑑識カード」は被告人が酒酔いの状態にあった点について被告人の自白を補強するにとどまり、運転行為の点については、右自白を何ら補強していない
  • この点において、刑訴法319条2項に違反した訴訟手続の法令違反があることに帰着し、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである

と判示しました。

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