道路交通法違反

道交法違反(事故報告義務違反)(13)~「車両による交通によって故意に傷害を加えてた場合でも、道交法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立する」を説明

 前回の記事の続きです。

車両による交通によって故意に傷害を加えてた場合でも、道交法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立する

 道交法72条1項前段の「交通事故」とは、道交法67条2項により、

「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」をいう

とされています。

 「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」の「交通による」とは、

車両等の交通に起因した事故のこと

をいいます。

 交通によるものである以上、車両等の運転そのものによる事故であることは必要としません。

 例えば、

ひき逃げの犯人において追跡者に対し車両の急激な発進により創傷を与えた行為が傷害罪にあたるとした上、その傷害は道交法72条1項の「交通による」傷害であるとして、傷害罪と道路交通法違反(救護措置義務違反)の成立を認めた裁判例(大阪高裁判決 昭和44年1月27日)

があります。

 つまり、通常、交通事故は運転者の過失によって発生しますが、交通による故意の傷害の場合でも交通事故となり、被害者に傷害を負わせてその場から立ち去れば、傷害罪のほか、道交法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立します。

交通による故意の傷害で道交法違反(救護措置義務違反)の成立を認めた判例・裁判例

 交通事故によるが過失ではなく、運転者が相手方に対し、傷害若しくは暴行の故意のもとに車両の運転により人の死傷の結果を発生させながら、そのまま逃走したような場合において、道交法違反(救護措置義務違反)の成立を認めた以下の判例・裁判例があります。

大阪高裁判決(昭和44年1月27日)

【判決要旨】

 自動車を運転中に物損事故を起こして逃走しようとし、これを制止する者を振り切って運転したので、それらは一連のものとして車両による交通の一部を形成し、かつ被告人の意図も車両を運転進行することにより事故現場から逃走しようとする点にあったのであり、これに随伴して傷害の未必の故意を生じたにすぎないから本件傷害は車両等の交通によるものと解するを相当とする。

【判決の内容】

 裁判所は、

  • 被告人は、被告人の車を制止しようとしてMが車の右側のステップに足をかけて左手を窓の中人れ、またH、Kらが助手席のドアの直ぐそばに立っていること及びそのまま発進すれば同人らをそのため路上に転倒させる等して傷害を負わせることが起り得ることを知りながら、あえて時速約10キロメートルで発進したことが認められる
  • 本件傷害が道路交通法72条1項所定の「車両等の交通による人の死傷」にあたるかどうかを検討し、次いで本件の如き傷害罪(故意犯)による傷害罪故意犯による傷害事故の場合における同条項の適用について検討を進める
  • 原判決挙示の各証拠によると、被告人は、(イ)、普通貨物自動車を原判示第一の路上で運転中原判示第二の物損事故を起したが、(ロ)、そのまま運転を続けて逃走し、原判示第三の路上で横断者待ちのため一時停車中、(ハ)、前記Mら3名に制せられるやその制止を免れるためやにわに発車して、(ニ)、同市東田町まで運転して逃走したことが認められる
  • ところで、右(イ)、(ロ)及び(ニ)の普通貨物自動車の運転が同条項所定の交通又はそのさいに行なわれた行為の範囲に入ることは論をまたないところであるが、(ハ)の発車行為もまた(イ)、(ロ) 及び(二)の車両の運転行為とともに一連のもので車両による交通の一部を形成するものであり、かつ被告人の右発車の主たる意図もまた車両を運転進行することにより事故現場から逃走しようとする点にあったのであって、右車両の運行による逃走の目的を逐げるため、これに随伴して原判示の傷害の未必の故意を生じたものに過ぎない
  • 従って本件傷害は同条項にいう車両等の交通による人の死傷にあたるものと解される
  • 次に、本件の如き傷害罪による傷害についても、同条項の適用があるかどうかを検討するに、同条項は、交通事故における被害者の救護および交通秩序の回復等緊急を要する応急措置を講じさせる義務と当該事故等に関する報告の義務を定めたものであるが、かかる義務を科すべき必要は、右条項にいう人の死傷の結果を発生させた原因行為について故意過失の有無を問わないものと解すべきである(大審院大正15年12月13日判決参照) から故意犯である刑法上の傷害罪にあたる行為であっても、それが本件の如く車両等の交通によるものと認められるかぎり、これについて特に同条項の適用を除外すべき理由は見当らない
  • そして、かように解することは、当該犯罪行為が車両等の交通又はこれに随伴して行なわれたことを前提とするものであって、これを故意犯を含む犯罪一般に推し及ぼそうとするものでないことはもちろん、車両が犯罪の手段となっている場合でも、その交通に関連なく、車両内で行なわれた犯罪や、当初から車両の運行を犯行の手段として利用する意図のもとに行なわれた犯罪について、これを論議の対象としているものではないから、いわゆる不作為犯における作為義務を不当に一般化し、あるいは憲法に保障された自己負罪に対する特権を奪う等の非難を招くものではないと考えられる

と判示し、傷害罪と道路交通法違反(救護措置義務違反)が成立するとしました。

最高裁判決(昭和50年4月3日)

 裁判所は、

  • 自動車の運転者が傷害の故意に基づき車両の運転によって相手方を負傷させ、その場から逃走した場合であっても、傷害罪のほかに救護義務違反罪も成立するものといわなければならない
  • この場合において、右の傷害行為に対する刑罰的評価は負傷者に対する救護義務違反の行為をも評価しつくしているとはいえず、また、このように救護義務の履行を強制したとしても、それが、被害者に傷害を負わせる意図のあった行為者の故意の内容と矛盾するものともいえない

と判示しました。

交通による故意の傷害で道交法違反(事故報告義務違反)の成立を認めた判例・裁判例

 傷害若しくは暴行の故意のもとに、車両の運転により、人の死傷の結果を発生させながら、これを警察官に報告しなかった場合において、道交法違反(事故報告義務違反)の成立を認めた以下の判例・裁判例があります。

岐阜地裁判決(昭和48年7月19日)

 裁判所は、

  • 故意犯である傷害罪、傷害致死罪あるいは殺人罪に当たる行為であっても、交通とは関連なく車両内で行われた犯罪や当初から車両の運行を犯行の手段として利用する意図のもとに行われた犯罪についてはともかく、本件のように車両等の交通によって発生したと認められる故意犯については、特に事故報告義務の適用を除外すべき理由はない

と判示しました。


最高裁判決(昭和50年1月22日)

 裁判所は、

  • 被告人は、普通乗用車を運転中、酒気帯び運転と認められてA巡査運転の白バイの追跡を受けるや、白バイの進路を妨害しその追抜きを阻止して逃走するため、故意にハンドルを切って自車を白バイの進路上に進出接近させる暴行を加えた結果、自車に白バイを接触転倒させ、同人を死亡するに至らしめながら、そのまま逃走したというものであって、このように、自動車運転者が暴行の犯意のもとに車両の交通により人の死傷の結果を発生させた場合であっても、道路交通法72条1項後段所定の各事項の報告義務を免れないものとした原判決の判断は正当である

と判示しました。

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