前回の記事の続きです。
事故の当事者の一方が事故報告をしても、もう一方の事故の当事者の事故報告義務は消滅しない
交通事故の当事者が複数いた場合に、当事者の一人が警察に事故報告をしたからといって、ほかの当事者の事故報告義務がなくなるわけではありません。
この点に関する以下の裁判例があります。
東京高裁判決(昭和43年12月25日)
この判決は、車両同士が衝突し、一方の運転者が電話で警察に事故の報告をしているのを知って、自宅に逃げ帰った他方の運転者に対し、一方の運転者が法第72条1項後段の報告をすれば、他方の運転者が再度報告しても独自の意義をもたないことから、他方の運転者の報告義務は消滅するとした原審の判決(昭和43年6月21日前橋地裁)を否定する見解を示したものです。
裁判所は、
- 報告義務は、たとえ一方の運転者が報告したからといって、直ちに他方の運転者がこれを免れるものではなく、各運転者においては、いずれも所定の事項を報告する義務がある
- ただし、報告の方法としては、共同して報告義務者の一人から報告することも許される
としました。
裁判所は、
- 自動車相互での交通事故を起こした車両等の運転者は、同運転者において負傷者を救護し、交通秩序も回復され、道路上の危険も存在しないため、警察官においてそれ以上の措置をとる必要がないと思われる場合でも、道路交通法72条1項後段所定の各事項の報告義務を免れない
と判示しました。
裁判所は、
- 自動車相互間での交通事故が発生した場合においては、それぞれの自動車の運転者が、法第72条1項後段のいわゆる事故報告義務を負い、一方の自動車運転者または第三者から事故報告がなされても、他方の自動車運転者の事故報告義務が消滅するものではないと解すべきであり、このように解しても憲法第38条1項に違反しないことは明らかである
と判示しました。
東京高裁判決(昭和55年11月25日)
裁判所は、
- 被告人は、事故後直ちに現場から立ち去り、立ち去るに際し、第三者が警察官に対し事故を報告し、これによって負傷者の救護や現場道路における危険の防止等の措置がとられ、もはや被告人から重ねて報告をしても意味がない状態に立ち至ったものと認識していたとはとうてい認められないから、第三者から事故の報告がなされた事実があるからといって、それだけで被告人の報告義務は消滅しないと解すべきである
と判示しました。
大阪高裁判決(昭和58年10月12日)
裁判所は、
- 本件交通事故の一方の当事者が警察官であり、かつ、その警察官が道路交通法第71条1項後段の事故報告をし、警察官において交通行政上の必要な措置を執り得たとしても他方当事者の被告人にも同条項所定の報告をする必要性がなお存在しているのであって、所論がいうように被告人に報告義務の発生する余地がなかったとは到底いいえないから原判決が事故報告をしないで逃走した被告人に対し原判示第三の報告義務違反の事実を認定し、道路交通法第72条1項後段、119条1項10号を適用したことには、法令適用の誤は存しない
と判示しました。