道路交通法違反

道交法違反(事故報告義務違反)(9)~「①軽微な交通事故、②後から事故発生を認識した場合でもあっても事故報告義務が発生する」などを説明

 前回の記事の続きです。

① 軽微な交通事故であっても事故報告義務が発生する

 軽微な交通事故であっても事故報告義務が発生します。

 軽微な交通事故だからといって事故報告をしなければ道交法違反(事故報告義務違反)が成立します。

 参考となる以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和50年2月18日)

 車内で発生した負傷事故であり、その負傷の程度も一見軽微のように見える場合であっても、警察官に負傷者の救護等について何らかの措置を講じる必要の有無の判断の機会を与える必要があり、報告義務があったものと解するのが相当であるとした判決です。

 弁護人は、

  • 原審は、被告人が道路交通法72条1項前段所定のいわゆる救護義務を尽くさなかった旨認定しているが、同法条は、路上において自動車の外部で発生した人身事故等の交通事故を主な対象とする規定であるから、本件のように車内で生じた軽微な事故にまで適用すべきではない
  • 原判決には、前記法条の解釈適用を誤った違法がある

と主張しました。

 この主張に対し、東京高裁は、

  • 車両等の運転者が、いわゆる人身事故を発生させたときは、直ちに車両の運転を停止し、十分に被害者の受傷の有無、程度を確かめ、全く負傷していないことが明らかであるとか、負傷が軽微なため被害者が医師の診療を受けることを拒絶した等の場合を除き、少くとも被害者に速やかに医師の診療を受けさせる等の措置を講ずべきであって、運転者自身の判断で、負傷は軽微であるから救護の必要はないとして右の措置をとらないことは許されないものと解せられる(昭和45年4月10日第二小法廷判決、刑集24巻4号132ページ参照)
  • ところが本件においては、証拠によれば、被告人は、前記認定のような経過で被害者Aが額に約4センチメートル大の傷を負って血がにじんでいたことを認識していながら、被害を軽微なものと速断して「けがが大きくなれば、会社に電話して下さい。」といって、自己所属の会社名、電話番号、姓名を記載した紙片を被害者に渡しただけで、直ちに車両の運転を停止して十分に被害の程度を確かめたうえ速やかに医師の診療を受けさせる等の措置を講じなかったことが認められる
  • そして証拠によれば、被告人が被害者に対して医師の診療を受けることを促した事実はなく、他方被害者が被告人に対して医師の診療を受けることを拒絶した等の事実も認められない
  • 所論は、本件は車内で生じた軽微な事故であるから前記法条を適用すべきでない旨主張するけれども、車内において発生した負傷事故であっても、右法条の適用がないとはいえず、同法条が、路上において自動車の外部で発生した人身事故等の交通事故を主な対象とした規定であるというのは独自の見解であって採用できない
  • また、被告人が被害者に対し前記のようなメモを渡したことで右法条所定の義務を尽したものともいえない
  • そうだとすると、被告人は道路交通法の前記法条の定める義務に違反したものであって、原判決に所論のような違法はないといわなければならない

と判示しました。

② 後から事故発生を認識した場合でも事故報告義務が発生する

 後から事故発生を認識した場合でも事故報告義務が発生します。

 後からでも事故を認識したにもかかわらず、事故報告をしなければ道交法違反(事故報告義務違反)が成立します。

 この点に関する以下の裁判例があります。

大津地裁判決(平成6年4月6日)

 裁判所は、

  • 交通事故を起こして人を負傷させたが、事故時に事故等の認識がなかった場合には、救護義務違反の罪は成立しないが、その後に何らかの交通事故の発生を認識した場合には、その旨の報告義務がある

と判示しました。

③ パトカーの追跡を受けている途中に起こした交通事故でも事故報告義務が発生する

 パトカーの追跡を受けている途中に起こした交通事故でも事故報告義務が発生します。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和53年8月9日)

 信号無視の違反によりパトロールカーの追跡を受け、逃げ回る途中での物損事故についても、道路交通法72条1項後段の報告義務があるとされた事例です。

 裁判所は、

  • 所論(※弁護人の主張)は、原判決判示第二の事実について、本件は被告人がパトカーに追跡されている間に起した追突による物損事故に関するものであって、その事故は警察官が現認していたものであり、また被害自動車も直ちに追跡を開始して交通秩序の侵害もなかったのであるから、被告人には道路交通法72条1項後段の報告義務はないのに原判決が一律にこれを合憲とし、その義務を怠った違反があるとしたのは法令適用の誤りを犯すものである、というのである
  • そこで関係証拠に照して検討すると、被告人は原判示第一の信号無視の道路交通法違反を警ら中のパト功ーの警察官に現認され、スピーカーによる停止の指示を受けながらこれを無視し、パトカーの追跡を受けて逃走中、信号待ち中の普通乗用自動車に追突して同車を損壊する原判示第二の交通事故を起したものであることが明らかである
  • ところで、道路交通法72条1項後段の規定が交通事故が発生した場合に運転者等に対しその発生の日時、場所、死傷者の数、負傷の程度、損壊した物および損壊の程度ならびに当該交通事故について講じた措置の報告を義務づけている法意は、警察官をして交通事故の発生を知り、被害者の救護、交通秩序の回復について適切な措置を執らせ、もって道路における危険とこれによる被害の増大とを防止し、交通の安全と円滑を図る等の専ら道路行政上の目的に奉仕するためのものであって、その交通事故の原因となった犯罪の捜査を目的としたものではなく、従って報告内容には事故発生者が刑事責任を問われるおそれのある事故の原因等の事項を含まず、またその方法は直接出頭を要しないのであるから、右条項は、黙秘権を規定した憲法38条1項に違反しているとはいえないことは明らかである(最高裁判所昭和37年5月2日判決刑集16巻5号495頁)ばかりでなく、同条項所定の義務は、自動車運転という一般に危険を伴う社会的に公認された行為をする者に対して、自己の行為に起因する事故について事故発生についての刑事責任の有無を問わず一律に課せられた義務であるから、その履行を強制することによる黙秘権に対する間接的影響は自動車を運転する者の黙秘権に内在する制約として許容され、受忍されなければならない性質のものと解するのが相当である。(東京高等裁判所昭和47年5月29日判決刑集25巻2号228頁参照)
  • そして道路交通法72条1項後段の趣旨が、前記のとおり、交通事故の発生した際警察官に適切な措置を執らせるための情報を得させようとするものであり、また同法条自体、事故現場に警察官が居合せる場合にも報告を要請していることに照すと、同規定は、同条所定の交通事故が発生した以上、警察官がその事故を現認していたかどうか、交通秩序が、混乱したかどうか等の具体的状況のいかんにかかわらず、事故を発生させた運転者に対し、同条所定の事項を警察官に報告することを義務づけたものであり、その理は他の違反を犯してパトカー等で警察官に追跡されている場合も異らないと解すべきであるから、本件にあっても、被告人は右法条による報告義務を免れないというべきであり、これと同趣旨の判断のもとに同法条の違反を認めた原判決の法令の適用に違法はない

と判示し、信号無視の違反によりパトロールカーの追跡を受け、逃げ回る途中での物損事故についても、道路交通法72条1項後段の報告義務があるとしました。

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