これから12回にわたり、道交法72条1項前段の道交法違反(救護措置義務違反)を説明します。
道路交通法違反(救護措置義務違反)とは?
道交法72条1項の前段と後段の説明
道交法72条1項は、交通事故があったときの運転者その他の乗務員の措置について定めたものであり、
- 72条1項前段において、救護措置義務違反
- 72条1項後段において、事故報告義務違反
を規定します。
道交法72条1項は、前段で、
- 交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない
と規定し、後段で、
- この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第75条の23第1項及び第3項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない
と規定します。
道交法違反(救護措置義務違反)とは?
道交法72条1項前段の道交法違反(救護措置義務違反)は、
交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない
とする規定です。
罰則
道交法違反(救護措置義務違反)の罰則は、道交法117条において、
1項 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があった場合において、第72条(交通事故の場合の措置)第1項前段の規定に違反したときは、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する
2項 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する
と規定されます。
① 道交法117条1項の罰則について
1⃣ 道交法117条1項は、当該車両の交通による人の死傷があった場合に、車両等の運転者が救護措置義務に違反したときに成立するもので、当該事故は「運転」によって生じたものである必要はなく、「交通による」ものであればよいです。
例えば、「坂道で駐車中、車が自然発車して事故を起こしたような場合」においても救護措置義務が生じることとなり、この場合、道交法117条1項の罰条が適用されます。
2⃣「車両等の運転者」とは?
「車両等の運転者」とは、軽車両を除いた車両等の運転者のことです。
「軽車両」には、
などが該当します(軽車両の詳しい説明は道路交通法の車両(3)の記事参照)。
軽車両による救護措置義務違反については、すべて道交法117条の5第1号(罰則:1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金)が適用されることになります。
道交法117条1項の「車両等」から「軽車両」を除いたのは、軽車両による交通事故で人が死傷する場合、特に人が死亡する場合がほとんどないためです。
また、道交法117条1項の罰則が適用されるのは、車両等の運転者なので、道交法72条1項前段の規定により措置義務を負う「その他の乗務員」については、道交法117条1項は適用されず道交法117条の5第1号の規定(罰則)が適用されます。
2⃣「当該車両等の交通による人の死傷があった場合」とは?
「当該車両等の交通による人の死傷があった場合」とは、交通事故のうち、人身事故があった場合ということです。
物損事故については、道交法117条の5第1号規定(罰則)が適用されることになります。
3⃣「第72条第1項前段の規定に違反したとき」とは?
「第72条第1項前段の規定に違反したとき」とは、人身事故があった場合に、車両等の運転者は直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなかった場合のことをいいます。
4⃣ 道交法117条の5第1号の規定(罰則)の説明
- 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の拘禁刑又は1万円以下の罰金に処する
- 1号 第72条(交通事故の場合の措置)第1項前段の規定に違反した者(第117条第1項又は第2項に該当する者を除く。)
と規定されます。
車両等(軽車両を除く。)の運転者が人身事故を起こした場合における措置義務違反については、道交法第117条に規定されているので、道交法117条の5第1号は、これに該当するものを除いたその他のものが対象となります。
具体的には、
- 軽車両の運転者が起こした人身事故の場合における救護措置義務違反
- 車両等の運転者が起こした人身事故の場合において、車両等の運転者ではない者、つまり「その他の乗務員」に対する救護措置義務違反
- 車両等(軽車両を除く。)の運転者の起こした物損事故について、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなかった措置義務違反
が道交法117条の5第1号の規定(罰則)が適用される対象となります。
② 道交法117条2項の罰則について
1⃣ 道交法117条2項は、救護措置義務の規定に違反した運転者のうち、その運転に起因して交通事故を生じさせた者(当該交通事故の発生に責任のある運転者)に対する罰則であり、道交法117条1項より重い罰則を規定したものです。
2⃣ 「前項の場合において」とは?
「前項の場合において」とは、
- 道交法117条1項に規定する車両等の運転者が当該車両等の交通による人の死傷があった場合において、道交法72条1項前段の規定(救護措置義務)に違反したとき
という意味です。
3⃣ 「人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるとき」とは?
「人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるとき」とは、
- 当該運転者の運転によって人の死傷に係る交通事故が発生したものであり、当該運転者の運転が原因となって当該事故が発生した場合
つまり、
- 当該運転者の運転と交通事故による人の死傷との間に相当因果関係が認められる場合のこと
をいいます。
一般的には、過失運転致死傷罪が成立するような場合には、運転者については道交法117条2項が適用されることとなります。
車両等の交通により人の死傷が生じていることを認識しつつ、救護義務を果たさなかった場合、その交通事故が当該運転者の運転に起因するものであれば、道交法117条2項が適用され、運転に起因するものでなければ、道交法117条1項が適用されることとなります。