道路交通法違反

道交法違反(救護措置義務違反)(12)~「罪数の考え方(1個の交通事故につき1個の救護措置義務違反・事故報告義務違反が成立する)」を説明

 前回の記事の続きです。

罪数の考え方

 道交法72条1項前段・後段の道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)は、1個の交通事故につき1個の救護措置義務違反・事故報告義務違反が成立します。

 例えば、1個の交通事故で、3名の被害者を自動車で惹き、そのまま被害者の救護も警察への事故の報告もしなかった場合、被害者の数は3人となりますが、1個の道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立します。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和58年10月20日)

 1個の交通事故で数人が負傷した場合でも、被害者の人数分の道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立するのではなく、1個の道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立するとした判決です。

【事案】

 被告人は、夕食時に飲酒した後、自動車で町に飲酒に出かけて帰宅する際、酔いで車が蛇行したり前方の注視が困難になったことを自覚しながら運転を中止しなかったため、道路右側部分に進入させて折から対面歩行中の被害者2名に自車を衝突させ、1名に大腿骨骨折を含む重傷を負わせ、他の1名にも加療約3週間を要する傷害を負わせたが、被害者を救護せず、事故を警察に報告することなくその場から逃げた道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)の事案です。

【一審の判決】

 道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)の罪数について一審は、被害者ごとにそれぞれ一罪が成立するものと解し、合計4個の道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立するとしました。

【高裁判決】

 東京高裁は、一審の判決内容を否定し、

  • 原判決は、道路交通法72条1項前段117条の救護義務違反罪及び同法72条1項後段、119条1項10号の報告義務違反罪の罪数につき、被害者ごとにそれぞれ一罪が成立するものと解し、本件において合計4個の罪の成立を認めて適条処断しているが、これらの罪は、構成要件と保護法益に徴すると、いずれも被害者の数にかかわらず1個の交通事故につき一罪のみが成立するものと解するのが相当であるから、原判決には法令の適用を誤った法があることになる

と判示し、1個の道路交通法違反(救護措置義務違反・事故報告義務違反)が成立するとしました。

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