前回の記事の続きです。
「負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」とは?
道路交通法違反(救護措置義務違反)は、道交法72条1項前段で、
- 交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない
と規定されます。
「負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置」は、
負傷者の救護、道路における危険防止のほか、死体の収容、付近の民家に車を突っ込んだ事故等における道路外における危険防止の措置等
をいいます。
死者の場合、死体を道路脇に移しただけでは道路交通法違反(救護措置義務違反)を免かれることはできません。
「負傷者を救護し」とは?
「負傷者を救護し」とは、
- 現場において応急の手当をすること
はもちろん、
- 医師への急報
- 救急車の要請
- 病院へ負傷者を運ぶこと
も含まれます。
「負傷者」の意義について以下の判例・裁判例があります。
裁判所は、
- 道路交通法第72条1項前段にいう「負傷者」とは、死亡していることが一見明白な者を除き、車両等の交通によって負傷したすべての者を含むものと解するのが相当である
- けだし、人の死亡の判定はきわめてむずかしく、ことに交通事故を起こした運転者その他の乗務員がとっさの間にその判定をすることは至難のことであるから、死亡していることが一見明白な者以外の者については、とりあえず、救護の措置をとらせるのが、被害者の救護を全うしようとする立法の趣旨に合致する
と判示しました。
福岡高裁判決(昭和45年4月15日)
裁判所は、
- 人の死亡の判定はきわめて難しく「死亡していることが一見明白な場合」とは、たとえば自動車に轢過された身体の重要部分が開放性破裂又は切断されたというように、特に医学に専門的な知識を有しない者にでも死亡と明認できる場合を指すものと解すべきである
と判示しました。
岐阜地裁判決(昭和48年7月19日)
裁判所は、
- 交通事故により死者を出した場合、特に医学的な専門知識を有しない者でも明らかに死亡と認定しうる状況にあり、かつ、運転者がそれを確認してその場を立ち去ったような場合は格別、それ以外の場合は、たとい客観的に即死であったとしても、被害者に対する救護の措置を講ずべき義務は免れない
と判示しました。
「道路における危険を防止する等必要な措置を講じ」とは?
道交法72条1項前段の「負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」における「等」は、
「道路における危険を防止する」ことは例示であり、道路外における危険防止も含まれる
という意味です。
道路における危険を防止するための必要な措置としては、例えば、
- その交通事故を起こした車両等をそのまま道路上に放置することは危険であるので、これをすみやかに他の場所に移動させること
- 負傷者が倒れているとき、これをすみやかに道路外の安全な場所に移動させること
- 道路上に油が流れており、他の通行車両がスリップするおそれがあるときは、付近にある砂等をまいてスリップを防止する措置をとること
などが挙げられます。
道路外における危険を防止するための必要な措置としては、
- 人家に突入させた自動車を屋外に出す措置
- 建物に自動車を突入させ、建物から発火の危険があるときはこれを防ぎ、発火したときはこれを消火する措置
- 死体を収容する措置
が挙げられます。