刑法(器物損壊罪)

器物損壊罪(10) ~「物の損壊行為が、その物の効用・価値を増大させる結果となった場合の器物損壊罪の成否」を説明~

 前回の記事の続きです。

物の損壊行為が、その物の効用・価値を増大させる結果となった場合の器物損壊罪の成否

 器物損壊罪(刑法261条)において、物の損壊行為が、その物の効用・価値を増大させるプラス効果をもたらす結果となっても、器物損壊罪が成立します。

 例えば、枝打ちは、木の下枝や枯れ枝を切り落とし、立木の生育を助長し、価値を付加するものですが、枝打ちが木の所有者の意思に反するのであれば、立木を損壊したことになり、器物損壊罪が成立します。

 この点を判示したのが以下の裁判例です。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和42年9月28日)

 山林の杉、檜の立木約477本を枝打ちした事案です。

 裁判官は、

  • 刑法261条の「損壊」とは、物質的に物の全部又は一部を害し、又は物の本来の効用を失わせる行為を言うのであって(昭和25年4月21日最高裁判決)、もっぱら物の効用を滅却もしくは減少させる行為に限定されるものではない
  • 即ち、毀棄罪の客体は、物の物体及びその効用もしくは価値の両者を意味すると解すべきである
  • 従って経済的、法律的、その他の見地から無価値の物でも、その物体の完全性を毀損する場合には本罪が成立し、又物体の完全性に対し何ら毀損を加えなくても、その効用価値を減少、滅却する場合にも本罪は成立する
  • 被告人の本件枝打ち行為は、客観的には、その立木の生育を助長し、価値を付加するものであっても、右立木の所有者である被害者の意思に反して、右立木の物体を毀損したものである以上、器物毀棄罪の刑責を免れるものではない

と判示しました。

 本件立木の枝打ち行為は、立木そのものの完全性を害したもの、つまり、物質的損壊を与えたものであって、それ自体で損壊となります。

 枝打ち行為が客体の価値を増加させたかどうかの点は損壊の成否と関係しないと解されるので、器物損壊罪が成立するという結論になります。

 器物損壊罪の保護法益は、他人の所有する物の持つ物的な価値、効用の保護を目的とするものです。

 それに照らせば、行為が客体に対し物質的損壊を与えず、客観的にはその効用ないし価値を増加させる場合であっても、その所有者からみれば客体の効用ないし価値の滅却ないし滅損となる場合には、損壊に当たるという理解になります。

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