前回の記事の続きです。
犯人よる証拠隠滅行為の教唆は、証拠隠滅教唆罪が成立する
被疑者・被告人が自己の刑事被告事件に関する証拠の隠滅を他人に教唆し、証拠隠滅行為を実行させた場合、証拠隠滅教唆罪が成立します。
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(明治45年1月15日)
裁判所は、
- 他人の刑事被告事件に関する(証拠隠滅の)行為を為したる以上は、たとえ刑事被告人の教唆により被告人のため、これを為したる場合といえども、なお刑法104条の罪を構成すべく、従って、これを教唆したる刑事被告人は、証拠隠滅罪の教唆者として論ずべきものとす
と判示し、証拠隠滅教唆罪が成立するとしました。
裁判所は、
- 犯人が他人を教唆して、自己の刑事被告事件に関する証憑を偽造させたときは、刑法第104条の証拠偽造罪の教唆犯が成立する
と判示しました。
他人が、犯人の刑事事件に対する証拠隠威行為を教唆した場合、証拠隠滅教唆罪が成立するか?
他人が、被疑者・被告人の刑事事件に対する証拠隠滅行為を教唆した場合、証拠隠滅教唆罪が成立するか否かという問題があります。
他人による被疑者・被告人に対する証拠隠減等の教唆の可罰性について、学説の多数は、 不可罰であるとします。
これに対し、被疑者・被告人には期待可能性がないので処罰されないが、違法性を具備する行為なので、教唆者は、教唆犯として可罰性が肯定されるとする見解もあります。
この問題については、以下の判例が参考になります。
大審院判決(昭和9年11月26日)
事案は、Aが、知人の犯した横領事件について、検事局が捜査中であることを知り、知人の妻にその証拠となる日記帳等を処分するように勧め、妻が日記帳、家計簿等を焼却したとし、Aが証拠隠滅教唆罪に問われた事案です。
原審は、正犯の行為(妻が夫のために日記帳等を焼却した行為)が罪とならない(旧刑法105条は、犯人の親族による証拠隠滅等について、「これを罰せず」と定めていた)以上、教唆犯が成立する余地がないとして無罪を言い渡しました。
これに対し、検察官が、Aに対し、証拠隠滅教唆罪の間接正犯が成立するとして上告したところ、大審院判決は、
- 犯人等の親族による証拠隠滅行為が不可罰である以上、これに対する教唆犯は認められない
- 間接正犯とは、責任無能力者、犯意のない者又は意思の自由を抑圧された者の行為を利用して構成要件を実現する場合であるから、間接正犯にも当たらない
と判示し、Aに対し、証拠隠滅教唆罪は成立しないとしました。