前回の記事の続きです。
刑法104条でいう「証拠」とは?
証拠隠滅罪は、刑法104条に規定があり、
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
この記事では、証拠隠滅罪(刑法104条)でいう「証拠」の意義を説明します。
証拠隠滅罪(刑法104条)にいう「証拠」の意義について言及した判例
証拠隠滅罪(刑法104条)の「証拠」とはどのようなものをいうのかについて、判例は以下のように述べています。
- 刑事事件が発生した場合、捜査機関又は裁判機関において国家刑罰権の有無を判断するに当たり関係があると認められる一切の資料(大審院判決 昭和10年9月28日)
- 犯罪の成否、態様、刑の軽重に関係を及ぼす資料(大審院判決 昭和7年12月10日)
- 訴訟条件等の訴訟手続上の事実に関する資料を含む物証のほか人証(にんしょう:法廷で証言をする人)を含む(大審院判決 明治44年3月21日、大審院判決 昭和7年12月10日、最高裁判決 昭和36年8月17日)
また、学説では、証拠能力・証拠価値の有無・程度を問わず、被告人・被疑者に利益なものであるか不利益なものであるかを問わないとするのが通説です。
証拠隠滅罪(刑法104条)にいう「証拠」には人証を含む
証拠隠滅罪(刑法104条)の「証拠」には人証(にんしょう:法廷で証言をする人)も含みます。
人証を含むとしているのは、人証である参考人・証人を隠匿するなどして、捜査・公判においてこれを利用することを不能にさせる行為の場合です。
この点を判示したのが以下の判例です。
裁判官は、
- 刑法104条の証拠隠滅罪は、犯罪者に対する司法権の発動を阻害する行為を禁止しようとする法意に出ているものであるから、捜査段階における参考人に過ぎない者も右法条にいわゆる他人の刑事被告事件に関する証拠たるに妨げなく、これを隠匿すれば証拠隠滅が成立するものと解すべきである
と判示しました。
参考人の虚偽供述・証人の偽証は証拠隠滅罪を構成しない
参考人の虚偽供述・証人の偽証は、刑法104条の「証拠の偽造」に該当せず、証拠隠滅罪を構成しません。
人証である「参考人を隠匿する場合」に、証拠隠滅罪(刑法104条)が成立するのであり、「参考人に虚偽の供述をさせること」は証拠隠滅罪ではなく、犯人隠避教唆罪(刑法103条)が成立し得ます(最高裁決定 昭和35年7月18日)(詳しくは前の記事参照)。
証人や参考人に対する働きかけ(被害届を取り下げさせるなど)が強制を伴えば、証人威迫罪(刑法105条の2)が成立し得ます。
法廷で証人が偽証すれば、証拠隠滅罪ではなく、偽証罪(刑法169条)が成立し得ます。
法廷で証人が偽証することを教唆すれば、証拠隠滅罪ではなく、偽証教唆罪(刑法169条)が成立し得ます(最高裁決定 昭和28年10月19日)。
証拠隠滅罪(刑法104条)にいう「証拠の偽造」とは、証拠自体の偽造を指称し、証人の偽証を含まないという理解になります。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(昭和9年8月4日)
裁判官は、
- 他人の刑事被告事件につき、証人が法律により宣誓を為したると否とを問わず、判事に対し虚偽の陳述を為したる場合はもちろん、同人をして右の如く虚偽の陳述を為さしめたる場合の如きは、共に刑法104条をもって処罰すべきものに非ず
と判示し、証言が証拠隠滅罪(刑法104条)の処罰対象から除外されるべきことを明らかにしています。