交通整理の行われていない横断歩道を車で通過する際の注意義務
過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、
自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務
を意味します。
(注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)
その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。
今回は、交通整理の行われていない横断歩道を車で通過する際の注意義務について説明します。
注意義務の内容
横断歩道は、横断する歩行者にとっては、ここを渡れば安全であると考える場所であって、当然歩行者に優先権があります。
道路交通法は、車両等が横断歩道に接近する場合には、
横断歩道を通過する際に横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、横断歩道で停止することができるような速度で進行しなければならず、横断中、又は横断しようとする歩行者があるときは、横断歩道直前で停止し、その通行を妨げてはならない
と規定しています(道路交通法38条1項)。
このことは、横断歩道上の自転車、自転車通行帯についても当てはまります。
横断歩道は「歩行者の聖域」と言われており、横断歩道上の事故にあっては、自動車運転者に、原則として過失ありとされます。
注意義務を判示した裁判例として、以下ものがあります。
① 横断歩道を通過する場合には、横断歩道を通過し又は通過しようとする歩行者の有無の確認につとめ、これに対する衝突、接触事故を避けるべき(最徐行、一時停止)義務がある(東京高裁判決 昭和46年5月31日)。
② 死角のある車両を運転している場合は、死角内の安全を、同乗車掌等により確認させるべきである(仙台高裁判決 昭和47年12月12日)。
③ 交通整理の行われていない横断歩道上で、渋滞停車中の車両の間から飛び出した幼児と衝突した場合について、そのような飛び出しが往々にしてあり得ることであろうと、あるいは偶然稀有のことであろうと、運転者にはそのような歩行者の通行をも妨げないように、横断歩道の直前で一時停止できるような方法と速度で運転する注意義務がある(東京高裁判決 昭和42年2月10日)
事例
横断歩道上の車と歩行者の衝突事故について過失ありとされた事例として、以下のものがあります。
① 横断中の者を見落として衝突した事例(札幌高裁判決 昭和44年8月7日)
② 渋滞した対向車線の車の陰から飛び出した幼児と衝突した事例(東京高裁判決 昭和46年5月31日)
③ 横断歩道のそばの歩道に母親と一緒にいた幼児が横断歩道に飛び出して来て衝突した事例(広島高裁判決 昭和57年10月5日)
④ 歩行者専用押ボタン式信号機の設けられた横断歩道で、横断者が押ボタンを操作せずに横断しようとして衝突した事例(東京高裁判決 昭和56年2月18日)
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