過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(5)~「車で進路変更する際の注意義務」を判例で解説~

車で進路変更する際の注意義務

 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、

自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務

を意味します。

 (注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)

 その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。

 今回は、車で進路変更する際の注意義務について説明します。

注意義務の内容

 自動車を運転中、進路を変更する際には、

  • まず、後方、右・左後方の安全を確認すること
  • 次いで進路を変更して新たに進入し進行しようとする路線の安全を確認すること

が求められます。

過失ありとされた事例

 進路変更の際の事故について過失ありとされた事例として、以下のものがあります。

大阪高裁判決(昭和41年4月19日)

 普通貨物自動車を運転して疾行車道を進行中、区分緑地帯の切れ目を通って緩行車道に進路を変えようとしたため、被告車後方約4 .5メートルを追従していた原動機付自転車に急制動(急ブレーキ)をかけさせてスリップ転倒させた事例。

東京地裁判決(昭和46年12月16日)

 ダンプカーを運転中、左後方の安全を確認せずに進路を道路左側端寄りに変更したため、左後方から進行して来た貨物自動車と接触し、これを左転把急制動させて歩道に乗り上げさせ、死傷事故を起こした事例。

札幌高裁判決(昭和58年3月22日)

 大型貨物自動車を運転して国道をタンクローリーに追従中、右後方を同方向に進行中の普通乗用車が被告車を右側から追い越そうとして並進状態にあったのに、先行するタンクローリーを右側から追い越そうとして進路を変更したため、並進状態にあった普通乗用車の進路を塞ぎ、同車を右側路外に逸脱転落させ、同車運転者ら2名に傷害を与えた事例。

広島高裁岡山支部(昭和62年6月10日)

 大型貨物自動車を運転して高速道路の加速車線から発進して本線に進入する際、右サイドミラーで右後方の本線車道を時速85.6キロメートルで進行して来る貨物自動車の前照灯の光を約116メートル後方に認めながら、相当距離があると思い、時速約30キロメートルで本線走行車線に進入したところ、右貨物自動車を被告車に追突させた事例。

 この裁判で、裁判官は、

  • 高速道路への進入という本件の状況下では116メートルの間隔は極めて危険な距離であり、被告人が時速約30キロメートルのような低速で、本線を走行している貨物自動車の前面に進入するのは、正に同車の進路を妨害する危険な運転方法である

と判示しました。

過失なしとされた事例

 上記事例とは逆に、進路変更の際の事故について、過失なしとされた事例として、以下のものがあります。

東京地裁判決(昭和46年12月16日)(前掲)

 前掲のダンプカーを運転中、左後方の安全を確認せずに進路を道路左側端寄りに変更したため、左後方から進行して来た貨物自動車と接触し、これを左転把急制動させて歩道に乗り上げさせ、死傷事故を起こした事例において、被告車に接触されて左転把等させられて歩道に乗り上げた貨物自動車の運転者に対し、

  • 相手車が、あらかじめ進路変更の合図もしないで、いきなり左に進路変更をしてくることを予見すべきであったと認めることは困難である

として、過失が否定されました。

大阪高裁判決(昭和43年4月15日)

 大型貨物自動車を運転し、幅員約14メートルの国道を進行中、追越車線から走行車線に進路を変えようとしたところ、左後方に車が迫っているのを認め、進路を元に戻すと、進路変更をしようとしていた間に対向車道の追越車線に入って被告車を追い越して制動をかけて停止しかけていた貨物自動車を認め、急制動・左転把したがこの貨物自動車に追突し、この貨物自動車が対向車線に逸走し、対向車と衝突した事例。

 裁判官は、被告人が追越車線から走行車線に入ろうとしてからこれを断念したことに過失はないとした上で、

  • 自車が追越車線にある間は、後続車両が交通法規を守り、自車を追い越すことがないことを信頼して運転すれば足りる
  • 被害者(貨物自動車の運転手)のように、交通法規に反して対向車線に進出して、追い越そうとする車両のありうることまでも予想して運転する必要はなく、そのような追越車両の有無およびその動静に注意する必要はない

として、過失が否定されました。

大阪高裁判決(昭和45年2月26日)

 大型貨物自動車を運転し、高速道路を進行中、車に異常を感じて路肩に退避停止しようとした際、後続車が、被告人が運転する大型貨物自動車に追突した事例。

 裁判官は、

  • 被告人は、自車の異常原因について事前に認識できなかったものであり、路肩に退避しようとして減速させるまでの運転上の措置にも過失は認められない

としました。

東京高裁判決(平成21年7月1日)

 普通貨物自動車を運転し、片側2車線の道路を時速約50キロメートルで走行中、左側歩道上から第1車線に進入した自転車を、前方約55. 2メートル先に認め、第2車線に進路変更し、時速約40キロメートルに減速したところ、同自転車がさらに第2車線に進出しようとしたのを左前方約12 .3 メートルの地点で発見し、急制動の措置を講じたが、自車を同自転車に衝突させた事例。

 高裁の裁判官は、危険な運転をしている被害者を注視して衝突を回避するための減速義務が生じるとした原判決の認定に対して、

  • 被害者が道路交通法に違反して第2車線へ車線変更することまで予見して減速する注意義務は生じない

とし、過失を否定しました。

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