感情的な出来事は一発アウト
今回は、『感情的な出来事においては、数が無視される』という人間の心理傾向について書きます。
まずは実験を紹介します。
エクソンバルディーズ号原油流出事故の訴訟を機に行われた実験
エクソンバルディーズ号原油流出事故(1989年、アメリカ)の訴訟を機に行われた実験です。
この実験では、海鳥を保護するために設置するオイルフェンスの寄付を募る実験を行いました。
実験内容
被験者を3つのグループに分け、それぞれ2千羽、2万羽、20万羽の海鳥を救うためにいくら寄付するかを表明してもらいます。
実験結果
海鳥を救うという救済活動をするのだから、救える海鳥の数が焦点になります。
20万羽を救う方が2千羽を救うよりはるかに価値があるはずです。
しかし、3グループの平均寄付額は、それぞれ、80ドル、78ドル、88ドルで、救える海鳥の数とは、ほとんど関係がなかったという実験結果になりました。
実験結果の理由
このような実験結果になったのは、被験者が反応したのは、救う海鳥の数ではなく、無力な海鳥の羽根に重油が絡みつき、溺れ死ぬイメージに対してだったからです。
こうした感情的な文脈では、数がほぼ完全に無視されることは、繰り返し確認されています。
『感情により数が無視される出来事』というのは、実は、気づかないうちに、日常で頻繁に起こっています。
感情により数が無視される出来事の例 ~1回も100回も変わらない~
けんか、誹謗中傷
けんかや誹謗中傷で、他人に自分を否定され、傷つけられた出来事というのは、ずっと覚えているものです。
それがたとえ1度きりの出来事だったとしてもです。
これは、自分を否定され、傷つけられた出来事というのが、感情的な出来事だったためです。
感情的な出来事において、数は無視されます。
妻や恋人などのパートナーとのけんかで、過去に1回あったトラブルについて、事あるごとに、「お前、あの時、私にひどいこと言っただろ」などと、繰り返し、蒸し返されることがあります。
これは、トラブルを被った本人にとって、トラブルの内容が感情的な出来事であったため、数が関係なくなり、1回も100回も同じになっているためです。
誹謗中傷や、自己否定は、やられた本人にとっては、数が無視される感情的な出来事として認定されます。
そのため、生涯にわたり禍根を残す一発アウト事案です。
上司に対する批判
上司に対する批判も、同様の理由から、一発アウト事案です。
上司にとっては、部下から1度批判されるのも、100回批判されるのも同じということです。
上司は、部下から1度批判されたことを、ずっと根に持ちます。
失敗、恥
失敗や恥をかいた出来事というのは、ずっと覚えているものです。
小学校のときの記憶でさえ覚えています。
理由は、失敗や恥をかいた出来事というは、感情的な出来事であるためです。
感情的な出来事であるがゆえに、数が無視され、1回の出来事でも強烈に記憶に刻み込まれます。
スキャンダル
テレビや週刊誌が報道する有名人の不倫・不正などのスキャンダルネタは、ずっと覚えています。
視聴者は、「このタレント、あの時、〇〇さんと不倫した人だ」とか「この政治家、あの時、政治資金を不正に受給した人だ」とか、その人をメディアで見かけるたびに、速攻でスキャンダルのことを思い出します。
これは、一度きりのスキャンダルだっとしても、それが視聴者にとって感情的な出来事になるため、スキャンダルを起こした人の代表的イメージとして、記憶に刻み込まれるからです。
法律の改正
社会的に注目される事件が1度起こると、その1つ事件をよりどころとして、いっきに法改正までいくことがあります。
2019年に、一つのあおり運転の事件が世間で注目され、2020年には、道路交通法が改正され、あおり運転が厳罰化されました。
また、2020年には、SNSの誹謗中傷により、恋愛バラエティー番組の出演者が自殺しました。
それにより、現在、プロバイダ責任制限法の改正により、誹謗中傷をした情報発信者の個人情報を特定しやすくるための法改正の動きが起こっています。
国会を動かし、法改正まで起こるのは、事件が感情的な出来事だったからです。
感情的な出来事でれば、事例の数は関係なく、1つの事例だけで、法改正まで進むということです。