刑法(総論)

執行猶予(4)~「刑の一部執行猶予の取消し」を説明

 前回の記事の続きです。

刑の一部執行猶予の取消し

必要的取消事由

 刑の一部執行猶予の必要的取消し事由は、刑法27条の4第1号・第2号・第3号において、

次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第3号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第27条の2第1項第3号に掲げる者であるときは、この限りでない。

  1. 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、拘禁刑以上の刑に処せられたとき(第1号)
  2. 猶予の言渡し前に犯した他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられたとき(第2号)
  3. 猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき(第3号)

と規定されます。

第1号の説明

 刑法27条の4第1号による一部執行猶予の取消しは、前回の罪における執行猶予の期間中、又は一部執行猶予開始前の実刑部分の刑の執行中に、更に罪を犯し(今回の罪)、今回の罪で拘禁刑以上の実刑判決があり、この実刑判決が確定したことを一部執行猶予の必要的取消事由として規定するものです。

第2号の説明

 刑法27条の4第2号による一部執行猶予の取消しは、前回の罪で執行猶予判決を受けて執行猶予中の被告人が、その執行猶予判決を受ける以前にも罪を犯していたことが発覚し(後から発覚した余罪)、その後から発覚した余罪で実刑判決(執行猶予がつかない判決)が言い渡された場合をいいます。

 もし、前回の罪の裁判のときに、今回の裁判で実刑判決となる「後から発覚した余罪」も一緒に裁判を受けていたのであれば、前回の罪も実刑判決となったといえます。

 したがって、前回の罪の執行猶予判決は取り消されることになるという考え方になります。

第3号の説明

 刑法27条の4第3号による一部執行猶予の取消しは、執行猶予の言渡し前に既に他の罪(前回の罪)について拘禁刑以上の実刑判決に処せられて、この判決が確定しているため、今回の罪につき、そもそも執行猶予の言渡しができないにもかかわらず執行猶予の言渡しをして判決が確定し、その判決確定後に執行猶予言渡しの要件を欠き違法であることが判明した場合に、その違法を是正するために、既に確定した今回の罪の一部執行猶予を取り消すことを規定するものです。

 例えば、今回の罪についての裁判で一部執行猶予判決がなされた後に、その裁判のときには分からなかったが、後から被告人が拘禁刑以上の刑(実刑)に処せられいたことが発覚した場合が該当します。

 今回の裁判で、被告人が前に禁刑以上の刑(実刑)に処せられいたことが分かっていれば、今回の裁判で被告人に一部執行猶予判決が言い渡されることはなかったはずです。

 よって、今回の罪の一部執行猶予判決は取り消されることになるという考え方になります。

裁量的取消事由

 刑の一部執行猶予の裁量的取消し事由は、刑法27条の5第1号・第2号において、

次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。

  1. 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき(第1号)
  2. 第27条の3第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき(第2号)

と規定されます。

 刑法27条の5第2号は、全部執行猶予に関する刑法26条の2第2号の「第25条の2第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき」という規定に相応する規定です。

 一部執行猶予に関する刑法27条の5第2号は、全部執行猶予に関する刑法26条の2第2号と異なり、遵守事項違反について「その情状が重いとき」との要件を設けていません。

 これは、刑の一部の執行猶予を言い渡される者は、一般に、刑の全部の執行猶予が言い渡される者と比較して犯情が重いと考えられ、刑の全部の執行猶予中の保護観察よりも遵守事項の遵守を一層強く促す必要があるとともに、比較的広く執行猶予が取り消されてもやむを得ないと考えられるためです。

刑の執行猶予中に更に罪を犯した場合、前刑の執行猶予期間は執行猶予期間満了日以降も効力が継続する

 刑法27条(全部執行猶予の規定)と刑法27条の7(一部執行猶予の規定)により、刑の全部又は一部執行猶予中に更に罪(法定刑が罰金以上の罪)を犯した場合、前刑の執行猶予期間は執行猶予期間満了日以降も効力が継続します。

 これにより、更に犯した罪の裁判が長引いて、前刑の本来の執行猶予期間が満了したとしても、執行猶予の効力が継続するとみなされます。

 そのため、更に犯した罪の裁判が確定した時には、前刑の本来の執行猶予期間が満了後であっても、前刑の執行猶予の取消しが行われる場合があります。

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