刑法(偽計業務妨害罪)

偽計業務妨害罪(11) ~「業務妨害罪の成立には、業務妨害の結果の発生を要しない」を説明~

 前回の記事の続きです。

業務妨害罪の成立には、業務妨害の結果の発生を要しない

 業務妨害(刑法233条後段刑法234条)の成立には、業務妨害の結果の発生を要しません。

 判例・裁判例は、少なくとも業務妨害の結果が発生する抽象的危険は生じていたと認められる事案について業務妨害罪の成立を認めています。

 なので、判例・裁判例は、業務妨害罪を

抽象的危険犯(具体的な犯罪行為の結果が発生していなくても、抽象的な危険が発生するおそれがある状況をもって犯罪の成立を認めるもの。抽象的危険犯の反対は具体的危険犯。)

と解していると理解するのが相当であるとされます。

 この点、参考となる判例・裁判例は、以下のものです。

大審院判決(昭和11年5月7日)

 理髪職人を解雇させるため、その雇主に虚偽内容の信書を郵送した事案です。

 裁判所は、

  • 業務妨害罪は虚偽の風説を流布し又は偽計を用い、人の業務の執行又はその経営に対し妨害の結果を発生せしむべきおそれある行為を為すにより成立し、現実に妨害の結果を生ぜしめたることを必要とせず

と判示し、そのように解釈する理由について、

  • 刑法233条は、人の経済的方面における安全を保護するをもって目的とし、信用と業務とを併せて規定し、信用毀損罪については結果の発生を必要とせざること夙に本院判例の趣旨とするところにして、業務妨害罪についても妨害の結果を発生せしむべきおそれある行為を為したるときは、経済的方面における安全を害するものと解するを妥当とすればなり

と説示しました。

大審院判決(昭和8年4月12日)

 旅館営業を阻害すべき虚偽内容のビラ多数を貼付して散布した事案です。

 裁判所は、

  • その妨害というは、単に業務の執行自体を妨害する場合のみならず、広く業務の経営を阻害する一切の行為を指称するものと解すべきが故に、判示の如く内容虚偽の宣伝ビラを貼付又は散布したる以上、自ら旅館営業を阻害すること看取するに難からざるをもって業務妨害罪を構成するや論なし

と判示しました。

広島高裁判決松江支部(昭和30年2月28日)

 ミシン販売を妨害するため、虚偽内容の新聞広告をした事案です。

 裁判所は、

  • 本来、業務妨害罪の成立には妨害の結果を発生ぜしめるに足る行為あるをもって足り、必ずしも現実に妨害の結果が発生したことを要しないものと解すべきである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和58年3月31日)

 マジックホン(通話料金の適正な計算を妨げる電気機器)を電話回線に取り付けた事案です。

 裁判所は、

  • 偽計業務妨害罪はいわゆる危険犯であり、現実に業務遂行が妨害されることは必要でなく、これらに対する妨害の結果を発生させるおそれのある行為があれば足りると解するべきである

と判示しました。

 このほか、業務妨害罪が抽象的危険であることを示す判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和2年7月23日)

 業務妨害罪の判示に当たって必ずしも発生した損害額を確定・明示することを要しないとした事例です。

 裁判所は、

  • 刑法第234条の業務妨害罪の事実を判示するには、一定の威力を用いて他人の業務の執行経営を阻害したることを認定するをもって足り、必ずしもこれにより発生せしめたる損害の数額を明示するを要せず

と判示しました。

最高裁判決(昭和61年6月24日)

 マジックホンと称する電気機器を電話回線に取り付けた行為につき違法性が否定されないとした事例です。

 裁判所は、

  • マジックホンと称する電気機器を加入電話の回線に取り付けた行為は、たとえ同機器を取り付けた者がただ1回通話を試みただけでこれを取り外した等の事情があったとしても、違法性が否定されるものではない

と判示し、偽計業務妨害罪(刑法233条前段)が成立するとしました。

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