前回の記事の続きです。
偽計業務妨害罪の故意
偽計業務妨害罪(刑法233条後段)は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。
偽計業務妨害罪の故意は、
構成要件として定められた各手段(「虚偽の風説の流布」「偽計」)を用いる認識と、その結果、人の業務を妨害するおそれのある状態が生じることの認識
を要します。
その認識は、未必的認識で足り、積極的に人の業務を妨害する目的意思を要しません。
この点を判示したのが以下の裁判例です。
大阪高裁判決(昭和39年10月5日)
Aを困惑させる目的で、電話でA名義でB商店ほか10軒へ虚構の商品注文をして、B等の業務を妨害した事案です。
裁判所は、
- 刑法233条に規定する業務妨害罪の犯意は、行為者が積極的に他人の業務を妨害することを意欲する場合に限られるものではなく、業務妨害の結果を惹起することの認識があるだけで足りると解すべきことは他の犯罪一般におけると同様であって、業務妨害罪の成立には業務を妨害せんとする意図を要する旨の所論見解は採用できない
と判示しました。
流布する風説の虚偽性の認識
流布する風説の虚偽性については、客観的真実に反することにつき、少なくとも未必的認識を要すると解されます。
この点、参考となる以下の裁判例があります。
東京地裁判決(昭和49年4月25日)
裁判所は、
- 「虚偽の風説」を確実な根拠・資料に基づかない事実とした解釈に従うかぎり、故意の内容は、これに照応して、自己の言説が確実な根拠・資料に基づかないことの認識であると解するのが相当である
と判示しました。
故意の点で偽計業務妨害罪の成立を否定した裁判例
故意の点で偽計業務妨害罪の成立を否定した裁判例として、以下のものがあります。
列車から下車する際、おもしろ半分に制動機の緩解を阻止する装置を緊締状態にして降車し、列車の出発を不能にして是正のため約3分間遅発させた事案です。
裁判所は、
- 列車の制動機を故なく緊締なる場合、他人がその事実を知らないこと、あるいは緊締していないものの如く錯誤に陥ったことを利用して業務を妨害せんとする意図に出たものでないかぎり、刑法第233条をもって律することはできない
と判示し、偽計妨害罪は成立せず、軽犯罪法1条31号違反が成立するとしました。