刑法(偽計業務妨害罪)

偽計業務妨害罪(15) ~「業務妨害罪と①名誉毀損罪、②文書偽造罪、③有線電気通信妨害罪、④商標法違反、不正競争防止法違反、⑤航空機の強取等の処罰に関する法律違反との関係」を説明~

 前回の記事の続きです。

偽計業務妨害罪と他罪との関係

 偽計業務妨害罪(刑法233条前段)と

  1. 名誉毀損罪刑法230条
  2. 文書偽造罪
  3. 有線電気通信妨害罪(有線電気通信法13条)
  4. 商標法違反、不正競争防止法違反
  5. 航空機の強取等の処罰に関する法律違反

との関係を説明します。

② 名誉毀損罪との関係

 業務妨害の行為が同時に他人の名誉を毀損する場合は、業務妨害罪(刑法233条前段刑法234条)と名誉毀損罪(刑法230条)の観念的競合となります。

③ 文書偽造罪との関係

 業務妨害の手段として文書を偽造・行使した場合は、文書の偽造・行使と業務妨害罪は牽連犯となります。

④ 特別法違反の罪との関係

1⃣ 有線電気通信妨害罪との関係

 電話回線にマジックホン(通話料金の適正な計算を妨げる電気機器)を取り付けたり、音楽放送業務に使用する有線放送用電線をひそかに切断する行為は、業務妨害罪に当たると同時に有線電気通信妨害罪(有線電気通信法13条:昭和59年の改正前は21条)に該当することとなります。

 両罪の関係について、両罪は立法趣旨、保護法益を異にしているので、観念的競合になると解されます。

 この点を判示したのが以下の判例です。

最高裁決定(昭和61年2月3日)

 裁判所は、

  • マジックホンと称する電気機器を電話回線に取り付け、応答信号の送出を妨げるとともに、発信側電話の度数計器の作動を不能にした行為は、有線電気通信妨害罪及び偽計業務妨害罪に当たり、両罪は観念的競合の関係にある

と判示しました。

2⃣ 商標法違反、不正競争防止法違反との関係

 業務妨害の行為が商標法78条、80条あるいは不正競争防止法2条にも抵触する場合は、業務妨害罪とこれらの特別法違反の罪との法条競合となり、業務妨害罪は成立せず、法定刑の重い商標侵害罪等のみが成立すると解されます。

3⃣ 航空機の強取等の処罰に関する法律違反との関係

 航空機の強取等の処罰に関する法律4条の罪(偽計又は威力による航空機の運行阻害、法定刑1年以上10年以下の懲役)は、航空機の運航という特殊な業務の保護を図るためのものであって業務妨害罪の加重類型とみるのが相当であると解されます。

 なので、航空機の強取等の処罰に関する法律4条が成立する場合は、業務妨害罪は成立しないと考えられます。

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