前回の記事の続きです。
「虚偽の風説を流布し」と「偽計」との関係
刑法233条は、
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
と規定します。
刑法233条後段が「虚偽風説流布による業務妨害罪」「偽計業務妨害罪」の規定であり、その行為は
「虚偽の風説を流布し」あるいは「偽計を用いて」という手段によって、人の業務を妨害したこと
です。
なお、裁判では、虚偽風説流布による業務妨害罪を「業務妨害罪」と呼び、偽計を用いての業務妨害罪を「偽計業務妨害罪」と呼びます。
本題に入ります。
刑法233条に併記されている「虚偽の風説を流布し」と「偽計」との関係については、
- 虚偽の風説を流布するのも偽計の一種であり、「偽計」の概念のなかに「虚偽の風説を流布」も含まれるとする見解
- 両者は別異の概念であり区別するべきであるとする見解
の二説があります。
刑法233条が「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて」と「虚偽の風説を流布し」と「偽計」を「又は」との文言によって並列に並べられている規定ぶりから②説が正しいように思われます。
しかし、②説に立つと、手段が「偽計」と「威力」に限定されていて「虚偽の風説を流布」が掲げられていない刑法96条の6第1項の競争入札妨害罪については、虚偽風説の流布による妨害が処罰を免れることとなり相当でありません。
なので、①説の
虚偽の風説を流布するのも偽計の一種であり、「偽計」の概念のなかに「虚偽の風説を流布」も含まれるとする見解
が正当であるとされます。
「虚偽の風説を流布」は「偽計」の一つの例示にすぎず、「偽計」の属性として虚偽の風説の流布に類以した行為に限定するものではないという理解になります。