刑法(非現住建造物等放火罪)

非現住建造物等放火罪(1) ~「非現住建造物等放火罪とは?」「本罪の客体」「居住者殺害後の放火は、非現住建造物等放火罪が成立する」などを説明~

 これから4回にわたり、非現住建造物等放火罪(刑法109条)の説明をします。

非現住建造物等放火罪とは?

 非現住建造物等放火罪(刑法109条

  1. 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する
  2. 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない

とする規定です。

 非現住建造物等放火罪は、

非現住建造物等(現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑)

に対する放火を処罰するものです。

 非現住建造物等放火罪は、

という罪です。

非現住建造物等放火罪の客体

 非現住建造物等放火罪(刑法109条)の客体は、

現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑

です。

 これに対し、現住建造物等放火罪(刑法108条)の客体は、

現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑

なので、対して理解をすると良いです。

 現に住居に使用する建造物であれば、たまたま放火の際、居住者が不在でも、非現住建造物(刑法109条)ではなく、現住建造物(刑法108条)となります。

 また、通常は人の居住しない建造物(刑法109条)でも、たまたま犯人以外の者が放火当時現にいれば現住建造物(刑法108条)となります。

「現に人が住居に使用せず」とは?

「現に人が住居に使用せず」とは、

犯人以外の者が住居に使用していないこと

をいいます。

 誰も居住しない空家、物置小屋等のほか、犯人(共犯者を含む)が一人で居住している建造物も非現住建造物等放火罪の客体となります。

 建造物の居住者又は現在者が放火を承諾したときは、「現に人が住居に使用せず」に該当する建造物になり、非現住建造物等放火罪の客体となります。

 非現住建造物の例として以下のものが挙げられます。

  • 物置小屋(大審院判決 明治41年12月15日)
  • 納屋(大審院判決 昭和13年8月22日)
  • 建築材料の充満した建築小屋(大審院判決 大正13年5月31日)
  • 掘立小屋(大審院判決 明治45年8月6日)
  • 炭焼小屋(仙台高裁判決 明治43年5月23日)

居住者殺害後の放火は、非現住建造物等放火罪が成立する

 居住者を全員殺害した直後に建造物に放火した場合は、非現住建造物放火罪が成立します。

 参考となる以下の判例があります。

大審院判決(大正6年4月13日)

 父母を殺害した後、犯跡を隠すため、死体の横たわっている家屋に放火した行為について、非現住建造物等放火罪が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 人を殺害したる後、その犯跡をわんがために、その死屍の横わたる家屋に放火し、これを焼燬したる行為は、家屋にほかに住居するものなく、また人の現在する事実なき以上は、刑法第109条に該当すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正7年12月18日)

 被告人が養父と闘争となり、被告人が養父を殺害した後、養父が被告人に投げつけたまきの燃え残りの火により、その家が焼けるのを放置した不作為による放火につき、刑法109条2項の非現住建造物等放火罪が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 自己の故意行為に帰すべからざる原因により、既に刑法第108条以下に記載する物件に発火したる場合において、これを消し止めるべき法律上の義務を有し、かつ容易にこれを消し止め得る地位にある者が、その発火の火力を利用する意思をもって鎮火に必要なる手段を執らざるは、法律にいわゆる火を放つの行為に該当するものと解するを相当とす
  • 如上の物件の占有者又は所有者が自己の故意行為に帰すべからざる原因により、その物件に発火したたために、公共に対し、危害の発生するおそれある場合にこれを防止することを得べきときは、その発火を消し止め、もって公共の危険の発生を防止する義務あるものとす
  • 被告人の所為刑法第109条2項に該当する

と判示しました。

居住者全員を殺害したと誤信して放火した場合は、現住建造物等放火罪が成立する

 たまたま外出者がいても、居住者全員を殺害したと誤信して放火した場合は、刑法38条2項により現住建造物等放火罪が成立します。

一時的に居住を離れた建物は現住建造物である

 居住者が若干の期間、例えば、

  • 避暑のため数か月間旅行その他の理由により不在であるというだけの場合
  • 地震、風水害に際し一時居住者が建物から避難した場合

などは、現住建造物性は失われず、そのような建造物を放火した場合は、現住建造物等放火罪(刑法108条)が成立します。

「現に人がいない」とは?

 刑法109条の「現に人がいない」とは、

現に犯人(共犯者を含む)以外の者が存在しないこと

をいいます。

「建造物、艦船又は鉱坑」とは?

 非現住建造物等放火罪の「建造物、艦船又は鉱坑」とは、現住建造物等放火罪(刑法108条)の意義と同じです。

 「建造物」の意義は、こちらの記事を参照願います。

 「艦船又は鉱坑」の意義は、こちらの記事を参照願います。

 なお、非現住建造物等放火罪(刑法109条)は、現住建造物等放火罪(刑法108条)と異なり、「汽車、電車」は客体には含まれていません。

 無人の汽車や電車を放火した場合は、建造物等以外放火罪(刑法110条)が成立することになります。

次回の記事に続く

 次回の記事では

  • 犯人の自己所有物件に対する放火(刑法109条2項
  • 無主物の建造物に対する放火

を説明します。

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