刑法(非現住建造物等放火罪)

非現住建造物等放火罪(2) ~「犯人の自己所有物件に対する放火(刑法109条2項)」「無主物の建造物に対する放火」を説明~

 前回の記事の続きです。

犯人の自己所有物件に対する放火(刑法109条2項)

 非現住建造物等放火罪(刑法109条)の客体(現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑)が犯人の自己所有にかかるときは、刑法109条2項で罪責が軽減されます。

 これは、放火罪が公共危険罪であるとともに、財産罪的性格も有することから、犯人の自己所有物の焼損は他人の物の焼損より軽く処罰されるというものです。

「自己の所有に係る」とは、共犯者の所有に属する場合も含まれる

 刑法109条2項の「自己の所有に係る」とは、犯人が放火した建造物が犯人の所有に属することをいい、共犯者の所有に属する場合も含まれるとするのが通説です。

放火した非現住建造物が、犯人と他人との共有物であるときは、刑法109条1項の非現住建造物等放火罪が成立する

 非現住建造物が、放火した犯人と他人との共有物であるときは、共有者の承諾がない限り、「自己の所有に係る」ではなく、他人の所有物として扱われ、その非現住建造物に犯人が放火すれば、刑法109条2項の非現住建造物等放火罪ではなく、刑法109条1項の非現住建造物等放火罪が成立します。

放火した非現住建造物の所有関係(犯人の所有か、被害者の所有か)が問題になった裁判例

 放火した非現住建造物の所有関係(犯人の所有か、被害者の所有か)が問題になった裁判例として以下のものがあります。

広島高裁岡山支部判決(昭和30年11月15日)

 所有関係が問題となった例として、被告人が焼損した炭焼小屋について、右小屋の骨組の雑木や茅のすべてはAが被告人の所有地から盗伐したものであるから、たとえA所有のわら縄、杉皮を用いて右小屋を造り上げたとしても、それらは被告人所有の右材料に対しては従たる部分の材料にすぎないから、民法243条に照らし右小屋は被告人の所有に属するとした事例です。

 裁判官は、

  • 被告人はヤソウ畑地内の立木はAに売却したが、コソボソ地内の立木は売却したものではないのに、Aはこれをほしいままに伐採し、この地内の雑木、等を主たる材料としてこれにA所有のわら、杉皮、縄などを加えて、本件の炭焼小屋を造ったものであることが認められる
  • すると本件小屋はその主たる材料の所有者である被告人の所有に属し、Aの所有ではなく、その他被告人は被告人以外の者の所有に属する如何なる物件をも焼毀したものではないと認めることができる
  • 加うるに、被告人が右小屋を焼毀するに際しては、何ら公共に危険を及ぼしたものと認め難いから、被告人の所為刑法第109条第2項但し書きの規定に従って組することを得ないものと認めざるを得ない
  • そこで刑事訴訟法第336条の規定に従って無罪の言渡しをなすべきものとする

と判示しました。

建造物の所有者が放火を承諾した場合、刑法109条2項の非現住建造物放火罪が成立する

 建造物の所有者が放火を承諾した場合、放火罪が公共危険罪である点からすれば、その承諾により違法性は阻却されず、刑法109条2項の犯人の自己所有物に対する放火に準じて処罰されるものと解されています。

 刑法109条2項の自己所有物の放火について刑責を軽減するのは、放火罪が公共危険罪であると同時に財産侵害の性質をもつことを考慮したものであるので、所有者の承諾により、処罰規定が変更され、刑法109条2項の自己所有物に準じて処罰されるものと解されています。

無主物の建造物を放火した場合、刑法109条2項の非現住建造物放火罪が成立する

 客体が所有権の放棄された廃屋、廃坑、あるいは、所有者が遺棄した船舶等の無主物である場合については、何人の財産権をも害さないことは自己所有物を焼損する場合と同じであるとして、所有者の承諾があった場合と同様、自己所有物に準じて、刑法109条2項で処罰されると解するのが通説です。

次回の記事に続く

 次回の記事では

  • 公共の危険
  • 既遂時期
  • 故意の成立要件
  • 共犯

を説明します。