前回の記事の続きです。
公共の危険
非現住建造物等放火罪の刑法109条2項は、
目的物が焼損したが公共の危険を生じないときはこれを罰しない
と規定します。
これは、放火した建造物が犯人が所有する自己の建造物であった場合は、建造物は焼損したが、公共の危険が生じていなければ、非現住建造物等放火罪は成立しないというものす。
この場合の未遂処罰規定はありません。
非現住建造物等放火罪の客体(現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑)の性質上、 これを焼損した場合には公共の危険が発生することが多いといえます。
裁判において、公共の危険が否定された事例として以下のものがあります。
広島高裁岡山支部判決(昭和昭30年11月15日)
自己所有の炭焼小屋を焼損した事案について、その所在場所は人家から300メートル以上隔てた山腹にあり、周辺の雑木はすべて切り払われ、当時小雨が降り続け、被告人も付近に延焼することのないよう監視して焼損した等の事情があることから、具体的公共の危険の存在を否定した事例です。
裁判官は
- 被告人が右小屋を焼毀するに際しては、何ら公共に危険を及ぼしたものと認め難いことも既に説示したとおりであるから、被告人の所為は刑法第109条第2項但書の規定に従って組することを得ないものと認めざるを得ない
- そこで刑事訴訟法第336条の規定に従って無罪の言渡しをなすべきものとする
と判示しました。
既遂時期
非現住建造物等放火罪の刑法109条1項の罪は、抽象的公共危険罪であり、目的物の焼損により当然公共の危険の発生があるものとされるから、
焼損の結果が生じた時点
で既遂となります(既遂の説明は前の記事参照)。
刑法109条1項に対し、非現住建造物等放火罪の刑法109条2項の罪は、具体的公共危険罪であり、公共の危険発生が犯罪成立の要件ですが、その既遂時期については、
- 公共の危険の発生は構成要件要素であるとした上、焼損によって公共の危険が具体的に発生しない限り既遂とならないとして、公共危険発生時を既遂時期とする見解
- 公共の危険の発生は客観的処罰条件であり、刑法109条2項の罪も刑法109条1項の罪と同様、目的物の焼損により既遂となるとする見解
に分かれています。
故意の成立要件
非現住建造物等放火罪は故意犯なので、故意がなければ本罪は成立しません。
※ 故意についての詳しい説明は前の記事参照
非現住建造物等放火罪の刑法109条1項の故意が成立ためには、
- 目的物が現に人の住居に使用せず、かつ、人の現在しない建造物で、自己の所有に属しない旨の認識
及び
- これに火を放って焼損することの認識
が必要です。
放火した建造物が犯人自身の所有であると誤信したときは、事実の錯誤として刑法109条2項の非現住建造物等放火罪が成立することになります。
公共の危険の認識は本罪の故意の成立には不要である
非現住建造物等放火罪の刑法109条2項の罪は、公共の危険の発生が要件ですが、その発生の認識の有無は犯罪の成否に関係しないと解されています。
共犯
非現住建造物等放火罪の共犯(共同正犯)の成否について、参考となる裁判例として以下のものがあります。
福岡高裁判決(昭和37年8月10日)
被告人から放火の計画を打ち明けられて、ガソリンの準備の協力を求められ、これを承諾した上、ドラム缶入りガソリン200リットルを購入し、石油缶13個に入れて放火目的の工場横の倉庫に格納するなどの被告人の果たした役割は、放火実現のため重要なものであり、共同正犯の罪責を負うとしました。
次回の記事に続く
次回の記事では
- 罪数
- 他罪との関係
を説明します。