刑法(重過失致死傷罪)

重過失致死傷罪(2)~「重過失致死傷罪の事例②」を判例で解説~

重過失致死傷罪の事例②

 前回の記事の続きです。

 今回は、重過失致死傷罪の事例として、

  • 灯油などの引火物の取扱いに関する事故
  • 危険な状態の放置による事故
  • 危険な毒物の管理に関する事故
  • 器具の使用に関する事故

を紹介します。

灯油などの引火物の取扱いに関する事故

東京高裁判決(昭和62年10月6日)

 店舗内で灯油ストーブ3台に給油しようとして、ストーブのそばに別の2台のストーブの灯油タンクを運び、本件ストーブのつまみを消火位置まで回した上、これに給油し、その後、このストーブの近くで給油ポンプを使用し、他のストーブの灯油タンクに給油を始め、一時その場を離れた間に、タンクから灯油を床面にあふれさせたことに気付き、急に給油ポンプを引き抜いたところ、ストーブ燃焼筒内の残炎を給油ポンプから降りかかった灯油を介して床面の灯油に燃え移らせ、店舗を全焼させるとともに死傷者を出した事案で、重過失致死傷罪が成立するとしました。

大阪地裁判決(平成2年11月13日)

 2階建共同住宅に住む者が、妻子がガス風呂に入浴中、居室裏土間でガソリンをポリタンクに移し替えようとしてガソリンを土間上に流出させて、ガス風呂焚き口の種火に引火させ、 さらにポリタンク内のガソリンにも引火させたため、ポリタンクを屋外に持ち出そうとして運搬中、火が右腕等に燃え移ったため、これを投げ出し自己住宅等を焼損するとともに、妻子3名を焼死させた事案で、重過失致死罪が成立するとしました。

危険な状態の放置による事故

 危険な状態を放置した点に重過失があるとされた裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和60年12月10日)

 泥酔状態の内妻を着衣のまま水風呂に入らせたまま放置して死亡させた事案です。

 裁判所は、保護責任者遺棄致死罪に当たるとした第一審判決を破棄して、内妻は酔いが醒めておらず、そのままにしておけば、浴槽内又は流し場辺りで水に濡れた着衣のまま眠り込むおそれのあることは十分推認でき、そうすると体温低下に気付かないままに心臓機能が停止するおそれがあったから、直ちに浴槽から連れ出し衣類を着替えさせるなど生存に必要な措置を講ずべき注意義務があったのに、そのまま放置して就寝させたのは重大な過失に当たるとし、重過失致死罪が成立するとしました。

危険な毒物の管理に関する事故

 危険な毒物の管理に関する裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(平成23年11月30日)

 除草剤を栄養ドリソクの瓶に移し替え、自車トランク内に同じ形状の瓶に入った栄養ドリンク数本とともに積んでおくなどした上、被害者に、未開封のものと取り違えて除草剤入りの瓶を交付して誤飲させ、死亡させた事案です。

 裁判所は、このような毒物を空き瓶に自ら移し替えた被告人には、本件容器の保管、管理を厳重にすべき義務があったところ、未開封の同じ形状の数本の瓶の近くにある状態で自車トランク内にいれるというずさんな管理下におき、かつ、そのことを留意しないまま、漫然と破害者に渡すなど注意義務違反の程度が著しいとして重過失致死罪の成立を認めました。

器具の使用に関する事故

 ゴルフクラブなどの遊具や猟銃などの危険な器具の使用に関する裁判例として、以下のものがあります。

大阪地裁判決(昭和61年10月3日)

 住宅街の道路上でゴルフクラブの素振りをし、自転車で通りかかった主婦の胸を強打し死亡させた事案です。

 裁判所は、道路上でのゴルフクラブの素振りは、人の死傷を招く可能性の高い極めて危険性の高い行為であり、こうした道路上ではゴルフクラブを振らないか、振るにしても場所を選ぶなどして通行人等のいないことを十分確認してなすべきであったとして重過失を認定し、重過失致死罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和35年7月27日)

 野鳥の狩猟者が、松の木に登ってスズメバチの巣を探していた人を鳩と思って猟銃を発射して負傷させた事案で、重過失致傷罪が成立するとしました。

神戸地裁判決(平成11年2月1日)

 妻と口論になり、妻が包丁を手にしたことから、隠し持っていた日本刀を取り出し、和室に戻ろうとしたところ、直前まで開いていたふすまが閉められており、これを手で開けようとしたが開かなかったことに激高し、憤激の赴くまま日本刀でふすまを力一杯突き貫いたことにより、ふすまの背後にいた長男(当時14歳)を突き刺し、死亡させた事案です。

 裁判所は、ふすまの背後に妻又は長男が佇立していることを認識し得たはずであり、ふすまの背後にいるであろう人の生命・身体の危険に対する配慮を全く欠いたまま、ふすまを日本刀で力一杯突き刺した点において、被告人の注意義務違反の程度ははなはだしいというべきであり、 重大な過失が存することは明らかであるとし、重過失致死罪が成立としました。

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