刑法(犯人蔵匿・隠避罪)

犯人蔵匿・隠避罪(1) ~「犯人蔵匿罪、犯人隠避罪とは?」「保護法益」「犯人又は逃走者の自己蔵匿・隠避は処罰されない」などを説明~

 これから8回にわたり、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)を説明します。

犯人蔵匿罪、犯人隠避罪とは?

 犯人蔵匿罪、犯人隠避罪は刑法103条に規定があり、

罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の懲役刑に処する

と規定されます。

保護法益

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の保護法益は、

刑事司法作用一般

です。

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の趣旨について、判例は、

  • 犯人蔵匿罪は司法に関する国権の作用により法益を侵害する犯罪なり(大審院判決 大正4年12月16日)
  • 司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰しようとするもの(最高裁判決 昭和24年8月9日
  • 捜査、審判及び刑の執行等広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰しようとする趣旨の規定(最高裁決定 平成元年5月1日

と判示し、保護の対象が刑事司法作用一般であることを示しています。

 「刑事司法作用」の具体的内容として、「犯人の身柄の確保」が挙げられます。

危険犯

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の成立には、現実に刑事司法の機能を妨げたという結果の発生を要せず、その可能性があれば足り、危険犯であるとされます。

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪が危険犯であることが分かる以下の裁判例があります。

東京地裁判決(昭和52年7月18日)

 裁判官は、

  • たとえ捜査官憲が被蔵匿者の所在を知っていたとしても、蔵匿行為が存在すれば犯人蔵匿罪、犯人隠避罪が成立する

としました。

犯人又は逃走者の自己蔵匿・隠避は処罰されない

 犯人又は逃走者が自ら隠れ潜み、あるいは逃げ隠れしても犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は成立しません。

 判例(大審院判決 昭和8年10月18日)は、

  • 不処罰の理由を「犯人がその発見逮捕を免れんとするは、人間の至情なるともって犯人自身の単なる隠避行為は法律の罪として問うところに非ず
  • いわゆる防御の自由に属す

と判示しています。

国外犯は処罰されない

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は国外犯の適用がありません(刑法3条4条4条の2)。

 なので、国外でなされた自国民による犯人蔵匿・隠避は、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪に該当せず、これを国内において教唆した者を犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の教唆犯として処罰することもできません。

爆発物取締罰則9条の犯人蔵匿罪・犯人隠避罪との関係

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の特別刑法として、爆発物取締罰則9条の犯人蔵匿罪・犯人隠避罪があります。

 爆発物取締罰則は原犯(同規則1条~9条)の罪責に鑑み刑を加重したものです。

 その趣旨は犯人蔵匿罪・犯人隠避罪と変わるところはありません。

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