前回の記事の続きです。
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は刑法103条に規定があり、
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の懲役刑に処する
と規定されます。
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)の行為の客体は、
- 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者
又は
- 拘禁中に逃走した者
です。
前回の記事では、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」を説明しました。
今回の記事では、「拘禁中に逃走した者」を説明します。
「拘禁中に逃走した者」とは?
「拘禁中に逃走した者」とは、
法令により拘禁中に逃走した者
をいいます。
法令により拘禁中の者は、刑法99条の「法令により拘禁された者」の範囲と一致すると解されています。
これらの者が逃走した場合には、直ちに犯人蔵匿罪、犯人隠避罪の客体になります。
逃走の原因・手段を問いません。
「拘禁中に逃走した者」が無実かどうかは問いません。
逃走罪(刑法97条)、加重逃走罪(刑法98条)、被拘禁者奪取罪(刑法99条)、逃走援助罪(刑法100条)、看守者等による逃走援助罪(刑法101条)を構成するか否かも無関係です。
「拘禁中に逃走した者」の意義について判示した以下の裁判例があります。
裁判官は、
- 刑法第103条にいわゆる拘禁中逃走した者とは、法令に基き国家の権力により拘禁を受けながら、正当の手続によらずして拘禁を脱した者を指称し、みずから故意に逃走した者のみならず奪取せられて拘禁を脱した者をも含む法意である
と判示しました。
刑法99条の「法令により拘禁された者」の具体例
刑法99条の「法令により拘禁された者」の具体例について、次のようにまとめることができます。
- 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者、勾引状の執行を受けた者
- 逮捕状・勾留状・収容状の執行を受けた者、緊急逮捕された者、現行犯人として捜査官憲に逮捕された者、現行犯人として私人に逮捕され、捜査官憲に引き渡された者など、刑訴法所定の手続により捜査・裁判機関に身体の自由を拘束された者
- 主として刑事司法上の要請に基づき国家機関により身体の自由を拘束されている者
- 刑事司法上の要請とともに、その者に対する保護・治療等の必要から身体の自由を拘束されている者
③についての補足説明
「③ 主として刑事司法上の要請に基づき国家機関により身体の自由を拘束されている者」には、例えば、
- 逃亡犯罪人引渡法による被拘束者(同法6条、25条)
- 出入国管理及び難民認定法による被収容者(同法39条1項)
- 法廷等の秩序維持に関する法律により拘束された者(同法3条1項)及び収容・監置された者(同法7条2項)
が該当します。
④についての補足説明
「④ 刑事司法上の要請とともに、その者に対する保護・治療等の必要から身体の自由を拘束されている者」については、学説で対立がみられます。
少年院に送致された者(少年法24条1項3号)、観護措置として少年鑑別所に送致された者(少年法17条1項2号)については、「法令により拘禁された者」に含まれるとするのが多数説ですが、両者とも含まないとする説、少年院に送致された者は含まないとする説もあります。
少年院に収容された者が逃走援助罪(刑法100条)の「法令により拘禁された者」に該当するか否かが争われた事案について、「実質的には、司法に関する国権の作用による強制的収容である」として、これを肯定した裁判例があります(福岡高裁宮崎支部判決 昭和30年6月24日)。
児童自立支援施設(児童福祉法44条)に入所させた児童については、「法令により拘禁された者」に含まれないとするのが通説です。
精神保健福祉法による措置入院者(同法29条)については、「法令により拘禁された者」に含まれないとするのが多数説ですが、これを含むとする少数説もあります。
心身喪失医療観察法により入院させる決定(同法42条)を受けた者については、対象者が重大な他害行為を行った者であり、再犯の危険性が強制医療の要件とされていることから、 「法令により拘禁された者」に含まれるとする見解があります。
警職法3条により保護拘束された者については、法令により拘禁された者に含まれるとする説と、これに含まれないとする説に分かれます。