刑法(犯人蔵匿・隠避罪)

犯人蔵匿・隠避罪(5) ~「隠避とは?」を説明~

 前回の記事の続きです。

隠避とは?

 犯人蔵匿罪、犯人隠避罪(刑法103条)の行為は、「蔵匿し、又は隠避させた」ことです。

 この記事では、「隠避」の意義を説明します。

 「隠避」とは、

蔵匿以外の方法により官憲の発見逮捕を免れしむべき一切の行為

をいいます。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(昭和5年9月18日)

 裁判官は、

  • 犯人隠避行為とは、蔵匿行為すなわち官の発見逮捕を防ぐべき場所の供給以外の官の発見逮捕を防ぐべき一切の行為なり
  • 逃走中の罰金以上の刑に当たる犯人の依頼に応じ、その留守宅の状況及び官憲捜査の形勢を探査して犯人に知らしめ、逃避の便宜を与える行為は犯人隠避罪を構成す

と判示しました。

「隠避」の具体例

 判例において「隠避」に当たるとされた具体的な行為を分類すると、

1⃣ 犯人に直接働きかける形態

2⃣ 捜査機関等に対して働きかける形態

3⃣ 捜査官による犯人見逃し形態

に分けることができます。

 以下で詳しく説明します。

1⃣ 犯人に直接働きかける形態

 「隠避」の犯人に直接働きかける形態は、以下の行為です。

① 犯人に特定の地域に向けて逃走・隠避するよう勧告した行為

(大審院判決 明治35年5月19日、大審院判決 明治44年4月25日)

② 犯人に逃走・隠避のための便宜を供与した行為

 具体的に以下の行為が挙げられます。

■ 逃走に資する情報を提供した行為

(大審院判決 昭和5年9月18日、和歌山地裁判決 平成16年3月22日)

■ 逃走のための金員を供与した行為

(大審院判決 明治43年4月25日、大審院判決 大正12年5月8日、神戸地裁判決 平成14年3月25日)

■ 逃走資金を供与し、かつ、逃走用の自動車1台を貸し渡した行為

(東京地裁判決 平成11年2月16日)

■ 逃走のための情報を提供し、かつ、金員を供与した行為

東京高裁判決 昭和37年4月18日、浦和地裁判決 昭和49年10月29日)

■ 犯人が偽名を用いるための他人の戸籍謄本、身分証明書を供与した行為

(大審院判決 大正4年3月4日)

■ 被告人方居宅に立ち寄った犯人に食事を提供し、睡眠させるなどして7時間過ごさせた行為

(大審院判決 大正12年5月9日)

■ 犯人をハイヤーに乗せて潜伏予定場所まで送った行為

最高裁判決 昭和35年3月17日

■ 逃走のために資金を調達・提供し、かつ、整形手術をさせた行為

(東京高裁判決 平成14年1月31日)

■ 犯人の指紋を消去する手術をした行為

(東京地裁判決 平成10年5月26日)

■ 犯人とともにホテルフロントに赴いて宿泊を申し込んだ際、被告人が所定の用紙に2人の偽名を記載し、一緒に宿泊した行為

(東京高裁判決 平成17年9月28日)

③ 犯人の自首を阻止するなどの行為

■ 真犯人の身代わりとなって公訴の提起を受けている被告人の弁護人が、真犯人の自首の決意を阻止するとともに、その事件の公判において、被告人が自己の犯罪であると供述するのを黙認して結審させた行為

(大審院判決 昭和5年2月7日)

2⃣ 捜査機関等に対して働きかける形態

 「隠避」の捜査機関等に対して働きかける形態は、以下の行為です。

① 犯人の所在について、警察官に虚偽の陳述をした行為

■ 犯人の所在確認に訪れた警察官に対し、犯人が現に自宅内にいるのに、既に他所へ向かって立ち去った旨虚偽の供述をした行為

(大審院判決 大正8年4月22日)

② 捜査官に対し、犯人の特定に関する事項について虚偽の陳述をした行為

■ 捜査官に対し、自ら犯人であることを自認してその旨の虚偽の陳述をし、あるいは他人を教唆して犯人であるとの虚偽陳述をさせた行為

最高裁判決 昭和35年7月18日最高裁決定 昭和60年7月3日

■ 殺人事件の犯人が自首したが、その身柄拘束前に身代わり犯人として警察に出頭した行為

(福岡高裁判決 昭和30年4月6日)

■ 共犯による監禁致死事件の犯人の1人が、他の共犯者1人を警察に出頭させて単独犯行である旨の虚偽の陳述をさせた行為

(旭川地裁判決 昭和57年9月29日)

■ 共犯による傷害致死事件において、犯人の1人が、意図的に共犯者の存在を隠して、自分の単独犯行である旨を申告した行為

■ 傷害致死事件の目撃者が、捜査官の参考人取調べにおいて、犯人から頼まれて、犯人は現場にいなかった旨の虚偽の供述をした行為

(和歌山地裁判決 昭和36年8月21日)

■ 業務上過失傷害等の事件の参考人として取調べを受けた者が、捜査官に対し、犯人のアリパイについて虚偽の供述をした行為

(札幌高裁判決 昭和50年10月14日)

■ 業務上過失致死等の事件の犯人が、他人を教唆して、警察に出頭させ、被害者が自らの過失で転落死した旨の虚偽の陳述をさせるとともに、転落現場の偽装をさせた行為

最高裁決定 昭和40年2月26日

■ 業務上横領事件の犯人(別罪で身柄拘束中)の罪を免れさせるために、他人と共謀して、横領物を第三者から購入したかのような虚偽の仕切書を偽造した上、当該他人を警察に出頭させて、その旨の虚偽の陳述をさせた行為

高松高裁判決 昭和27年9月30日

■ 傷害事件において、警察官に対し、被害者自身の過失で転倒して負傷した旨虚偽の事実を申し立てた行為

(神戸地裁判決 平成20年12月26日)

■ 路線バスの運転手から事故報告を受けた運行主任が、その際、運転免許が失効し無免許運転であった旨の報告を受けながら、営業所までの運転を指示したという道路交通法違反の罪を犯したという事案において、その上司が、警察官に対し、運行主任は、バス運転手が営業所に戻った後に無免許の事実を知ったという虚偽の報告書を提出した行為

(名古屋地裁岡崎支部判決 平成15年11月12日)

3⃣ 捜査官による犯人見逃し形態

■ 警察官が、賭博の現行犯人を逮捕したにもかかわらず、その哀訴を容れてほしいままに放免した行為

(大審院判決 明治44年7月18日)

■ 警察官が、賭博行為を現認し、その犯人を検挙し得たにもかかわらず、故意にその手段を執らなかった行為(不作為による隠避)

(大審院判決 大正6年9月27日)

■ 県警本部所属警察官による覚せい剤使用を知った最高幹部らが、同事件が公になるのを回避するため、当該警察官をホテルに宿泊させ(犯人蔵匿)、尿から覚せい剤成分が検出されることがなくなった後に、初めて覚せい剤使用の自発的申告があったように処理した行為

(横浜地裁判決 平成12年5月29日)

■ 検察庁の特捜部長・副部長が、部下の検察官による証拠のフロッピーディスクを改ざんするという証拠隠滅行為を認識しながら、捜査に向けた動きを封じるなどの工作に及んだ行為

大阪高裁判決 平成25年9月25日

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