刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(10) ~「名誉毀損罪の故意」を説明~

 前回の記事の続きです。

名誉毀損罪の故意

 名誉毀損罪(刑法230条)は故意犯であり、本罪の成立には、

故意

を必要とします。

 他人の社会的評価を害し得る事実を不特定又は多数人が認識し得る形で摘示していることについて、少なくとも未必の故意が必要となります。

※ 故意犯、未必の故意の説明は前の記事参照

 故意があれば、それ以上に名誉毀損の意図や目的をもっていたことは必要ではありません。

 なお、名誉毀損罪は、摘示事実が真実であったかどうかを問わず成立するため(この点の説明は前の記事参照)、摘示事実の真実性あるいは虚偽性の認識は、故意とは無関係です。

 ただ、摘示した事実を真実だと誤信した場合、その誤信に相当の理由があれば故意が阻却されるとするのが判例の立場です。

 この点につき、参考となる判例として以下のものがあります。

大審院判決(大正6年7月3日)

 裁判官は、

  • 刑法第230条第1項の罪の成立には名誉毀損行為が人の名誉を毀損する認識に出づるをもって足れりとし、必ずしも更に人の名誉を毀損する目的に出でたるものなることを要せざるは明白なり

と判示しました。

東京高裁判決(昭和28年2月21日)

 裁判官は、

  • 刑法第230条第1項所定の犯罪は、人の名誉を害するおしれあることを認識しながら、人の名誉を害するおそれある事実を公表することによって成立し、意識的に虚偽の事実を作りあげてこれを発表すること、または事実の真偽を良心的に調査しないであえてこれを公表することを要するものではない
  • ただ、ある事実を公表した者が、その事実を真実なりと信じかつ、かく信ずるにつき過失がなかったものと認められるかぎり故意の責任を阻却されることがあるにすぎない

と判示しました。

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