刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(24) ~公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)⑥「事実の公共性・目的の公益性の2要件がある場合に事実証明が行われる」を説明~

 前回の記事の続きです。

事実の公共性・目的の公益性の2要件がある場合に事実証明が行われる

 刑法230条の2が適用される場合は、名誉毀損罪(刑法230条)は罰されません。

 具体的には、名誉を毀損する事実が摘示され、

  • その摘示事実が公共の利害に関し(事実の公共性)
  • 摘示の目的が公益を図ることにあった場合(目的の公益性)

には、

  • 摘示された事実の真否の検討(事実の証明)

がなされ、名誉毀損罪の成否が決せられることになります。

 なお、

  • 起訴前の犯罪行為に関する場合には、目的の公益性だけが認められればよいこと(刑法230条の2第2項
  • 公務員等に関する事実については、両要件の存在が擬制されていること(刑法230条の2第3項

については、前回の記事①前回の記事②で説明しています。

裁判所の摘示された事実に対する職権調査義務

 前提の2要件(事実の公共性、目的の公益性)が備わっていると認められる場合には、裁判所は、必ず摘示された事実の真否を判断しなければなりません。

 この意味で、裁判所には、摘示された事実に対する職権調査義務があるとされます。

 この点を判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和28年2月21日)

 裁判官は、

  • 刑法第230条の2によれば、刑法第230条第1項の行為が公共の利害に関するものであり、かつ、専ら公益を図る目的に出たものと認められたときは、裁判所は当該事実の真否の探究に入らなければならないのであって、この場合においては、裁判所は一般原則に従い、その真否の取調をなすべきである

と判示しました。

 なお、2要件(事実の公共性、目的の公益性)が備わらない場合に、裁判所は、摘示された事実の取調べは許されないとする見解が一般的となっています。

 これは、裁判所が、摘示事実を訴訟の場で取調べることが再度の名誉毀損となり得るためです。

挙証責任の転換

 刑法第230条の2は、「真実であることの証明があったときは、これを罰しない」としており、積極的に真実性の証明がなされない限り、処罰は否定されません。

 摘示事実が真実である可能性がある場合でも同じです。

 この意味で、挙証責任(摘示事実が真実であることの証明責任)は被告人に転換されています。

 ただし、事実の真否については、裁判所に職権調査義務があるから、挙証責任の転換とは、被告人の立証活動に任せておいてよいという趣旨ではなく、裁判所が諸般の証拠を取り調べ、真相の究明に努力したにもかかわらず、真実であることが確定されなかったときは、被告人が不利益を負うということを意味します。

 参考となる以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和28年2月21日)

 裁判官は、

  • 刑法第230条の2第1項により事実の真否を判断するにあたっては、裁判所は証拠調の一般原則に従い、諸般の証拠を取り調べ真相の究明に努力し、その結果その事実が真実であることが積極的に立証された場合においては無罪の言渡をなすべく、右事実が虚構または不存在であることが認められた場合はもちろん、真偽いずれとも決定されないときは真実の証明はなかつたものと判断すべきものである

と判示しました。

 なお、この判決は、最高裁(最高裁判決 昭和30年12月9日)において、正当であるとされました。

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