前回の記事の続きです。
証人威迫罪における「刑事事件」とは?
証人威迫罪は、刑法105条の2に規定があり、
自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
証人威迫罪の客体は、「自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族」です。
この記事では、証人威迫罪の客体における「刑事事件」の意義について説明します。
「刑事事件」の意義は、証拠隠滅罪(刑法104条)に「刑事事件」の意義と同じです(詳しくは前の記事参照)。
「刑事事件」は、
- 被疑事件(事件が起訴されておらず、裁判所に事件が係属していない事件)における証拠隠滅行為・・・被疑者段階における証拠隠滅行為
- 被告事件(事件が起訴され、裁判所に事件が係属している事件)における証拠隠滅行為・・・事件が起訴され、被疑者から被告人になった後の被告人段階における証拠隠滅行為
の両方を含みます。
しかし、捜査開始前の事件を含むか否かについては、証拠隠滅罪(刑法104条)におけると同様に見解が分かれており、これを含むとする積極説と、これを含まないとする消極説があります。
「刑事事件」であるので、
は含まれません。
「刑事事件」は、将来刑事事件になり得る事件を含むとするのが判例・通説なので、
- 国税犯則事件における通告処分・告発以前の調査中の事件(国税犯則取締法1条)
- 関税犯則事件における通告処分・告発以前の調査中の事件(関税法119条)
- 少年法20条により将来刑事処分を受ける可能性のある少年保護事件
も「刑事事件」に含むと解されます。
問題は、
についてですが、これらについて、「刑事事件」に含まれるとする見解と含まれないとする見解があります。
「将来刑事事件になり得る事件」という上記記判例・通説の見解に従えば、
- 付審判請求事件
- 再審請求事件
は、将来の本案事件に向けられた手続という意味で「刑事事件」に含まれ、本案事件から派生したその余の手続(③、④)はこれに含まれないとすべきとされます。
付審判決定後の準起訴手続の審判及び再審開始決定後の再審の審判が、本案事件としての「刑事事件」そのものに当たることについては異論がありません。
しかし、将来刑事事件になり得るものを含むとする判例・通説の立場からは、準起訴事件・再審開始事件について、どの段階から本条の「刑事事件」に含まれるとみるべきかが問題となります。
学説では、再審事件について、
- 再審請求が確実になったとき
- 再審請求があったとき
- 再審の可能性があるとき
- 再審が予想されるとき
- 再審開始決定がなされたとき
というように見解が分かれています。
付審判請求事件・再審請求事件そのものが「刑事事件」に含まれるという上記の見解に立てば、付審判・再審の請求があった段階からは当然に証人威迫罪が成立する余地があり、 これらの請求をすることが確実になった段階で証人威迫罪所定の者に対して証人等威迫行為に及べば、証人威迫罪を構成すると解されます。