これから職務強要罪、辞職強要罪(刑法95条2項)について説明します。
職務強要罪・辞職強要罪とは?
刑法95条2項の職務強要罪・辞職強要罪は、
公務員の正当な職務の執行を保護しようとするばかりでなく、広くその職務上の地位の安全をも保護しようとするもの
です(最高裁判決 昭和28年1月22日)。
つまり、刑法95条1項の公務執行妨害罪とは若干異なり、端的に公務そのものを保護するというよりは、公務員の職務上の地位の安全を保護することによって間接に公務を保護しようとするものです。
刑法95条1項の公務執行妨害罪が、公務員の現在の職務を保護するものであるのに対し、刑法95条2項の職務強要罪・辞職強要罪は、公務員の将来の職務を保護するものであるという違いがあります。
主体(犯人)
職務強要罪・辞職強要罪の主体(犯人)について限定はなく、どのような身分の人でも本罪の犯人になり得ます。
客体(暴行・脅迫の対象は公務員)
職務強要罪・辞職強要罪の客体(暴行・脅迫の対象)は公務員です。
公務員の定義については、公務執行妨害罪の場合と同様です(詳しくは前の記事参照)。
犯罪の成立を認める当たり、公務員にある処分をさせ若しくはさせない目的、辞職させる目的を要する
職務強要罪、辞職強要罪は、目的犯であり、本罪の成立を認めるには、
①公務員にある処分をさせ若しくはさせない目的
又は
②公務員を辞職させる目的
を必要とします。
目的が実現したか否かは犯罪の成立には無関係
①②の目的が実現したか否かは、職務強要罪、辞職強要罪の成立には無関係です。
本罪は、公務員をしてある処分をさせ、あるいはさせないためなどの目的で暴行又は脅迫を加えれば直ちに成立するのであり、その結果、公務員が加害者の目的とする処分をし、あるいはしなかったか否かは犯罪構成の要件ではないとされます。
以下が参考判例です。
大審院判決(昭和4年2月9日)
この判決で、裁判官は、
- 刑法第95条第2項の罪は、犯人が公務員をしてある処分をなさしめ、若しくはなさしむる等の目的をもって暴行又は脅迫を加えるにより直ちに成立し、結果の発生を必要とせず
と判示しました。
「公務員にある処分をさせ…」の「処分」とは?
① 職務強要罪・辞職強要罪の「処分」は、広く公務員が職務上なし得べき行為を指します。
以下が参考判例です。
大審院判決(明治43年1月31日)
この判決で、裁判官は、
と判示しました。
② 処分することによって、一定の法律上の効果を生じさせるようなものであることを要しません。
以下が参考判例です。
大審院判決(昭和8年11月27日)
この判決で、裁判官は、
- 村会議員の議場に入るを妨げ、よって議事をなすことを得ざらしむるの目的をもって、村会議員をその議場に赴くの途上にむかえて、暴行を加え、議員らをして村会に出席することを断念して引き返し、議事をなすことを得ざらしめたる行為は、刑法第95条第2項に該当す
と判示しました。
この判例は、村会への出席という一定の法律上の効果を生じさせるようなものではないことに対し、刑法第95条第2項の処分に該当するとした点が注目されます。
③ 処分は、公務員の職務に関係ある処分であれば足り、その職務権限内の処分であるとその職務権限外の処分であるとを問わないとされます(最高裁判決 昭和28年11月22日)。
これは、本罪が、公務員の正当な職務の執行を保護するばかりでなく、広くその職務上の地位の安全をも保護しようとするものであるためです。
公務員に正当な処分をさせ、又は不当な処分をさせないためであっても、本罪を構成する
正当な処分をさせるため、又は不当な処分をさせないためであっても、本罪を構成します。
以下が参考判例です。
この判決で、裁判官は、
- 水増し課税や徴税目標額に基づく課税方法等は、仮りに不当のものであるとしても、これが是正の道は税法所定の審査訴願及び訴訟の手段によるべく、これがため被告人らが、税務署係官に対し、判示のように直接脅迫手段に訴え、課税方法並に課税額及び徴税方法等の変更を求むることは法治国家の理念に徴し、もとより違法にして許されないところである
と判示しました。
職務強要罪における公務員の「処分」に当たるとされた事例
職務強要罪における「処分」に当たるとされた事例として、以下のものがあります。
大審院判決(明治43年1月31日)
村会議員が議場に出席して意見を表示し、あるいは議事をさせないために、議場に向かう村会議員に暴行・脅迫を加えて、議場に出席させなかった行為について、職務強要罪が成立するとしました。
大審院判決(大正13年2月28日)
村助役が村長の代理として村会を開会することを妨げるために、村助役に暴行を加えて、村会を開会させなかった行為について、職務強要罪が成立するとしました。
大審院判決(大正12年4月2日)
市会議員で市の土木委員である者が、市の工事に関して、その請負金を過大であるとし、市会又は市の土木委員会において反対意見を主張することを制止するために、その者を脅迫し、その主張をさせなかった行為について、職務強要罪が成立するとしました。
大審院判決(大正11年5月15日)
執達吏が、債務者の占有する有体動産の差押えを行う際に、その動産が債務者の所有に属するか否かを点検調査することを妨害するため、執達吏に暴行・脅迫を加え、その点検調査をさせなかった行為について、職務強要罪が成立するとしました。
名古屋高裁判決(平成20年9月30日)
警察署長に抗議するため、警察署課長らに対し、署長との面会の取次ぎをさせる目的で脅迫を加えた行為について、職務強要罪が成立するとしました。