単純接触効果とは?
人は、ある特定のモノや出来事を、何度も繰り返し、見聞きし、経験すると、そのモノや出来事に対して、心地良さを感じ、肯定的な印象を持つようになります。
この現象を「単純接触効果」といいます。
単純接触効果の名づけ親は、心理学者のロバート・ザイアンスです。
ザイアンスは、たとえ刺激が無作為だったとしても、その刺激が反復されると、人々は反復された刺激に好意を抱くようになることを解明した人物です。
学生新聞の実験
単純接触効果に関連する実験で、「ミシガン大学とミシガン大学州立大学の学生新聞で行われた実験」があります。
実験内容
① 数週間にわたり、ミシガン大学とミシガン大学州立大学の学生新聞の一面に、広告のような囲みが設けられ、そこに以下のようなトルコ語(またはトルコ語風)の単語が代わる代わる掲載される。
kadigra、saricik、biwonjni、nansoma、iktitaf
② 単語が繰り返される頻度はまちまちである。
期間中に一度しか掲載されない単語もあれば、日を変えて2回、5回、10回、25回と掲載される単語もある。
③ 掲載される単語についての説明は何もない。
④ この不思議な一連の公告が終わると、実験者は、学生に質問票を送り、単語が「良いこと」を意味していると思うか、それとも「悪いこと」を意味していると思うか、印象を尋ねる。
実験結果
掲載頻度の最も高かった単語は、1回か2回しか掲載されなかった単語に比べ、「良いこと」を意味すると考えた人がはるかに多かった。
この実験は、
人は反復して受けた刺激を好ましく思うようになる
ことを証明する実験となりました。
単純接触効果の力
単純接触効果は、意識とは無関係に効果が発生する点に力があります。
たとえば、ウェブ広告やSNS発信など、単純に目にする頻度が高くなるだけで、ユーザーは、そのウェブ広告やSNS発信に好意を抱くようになります。
企業が莫大な費用をかけてテレビCMやウェブ広告をうつのは、消費者の単純接触効果を得るためといえます。
広告の世界には、「よい広告はあるが、悪い広告というものはない」という格言があります。
この格言は、どんな広告でも、出しさえすれば、単純接触効果が期待できることを意味しています。
ヒット商品やバズが生まれる背景には、単純接触効果があります。
2020年8月は、ジャンプマンガの「鬼滅の刃」がヒットしています。
- Twitterでは、鬼滅の刃のアニメ画像やイラストを使ったツイートが連発する
- 書店では、鬼滅の刃の単行本が山積みになっている
- 企業とコラボしまくっている
- ゲーセンのUFOキャッチャーは鬼滅の刃グッツだらけ
- テレビでは、主題歌の「紅蓮華」が頻繁に使われる
- 子どもたちも「紅蓮華」を歌いだす
このように単純接触効果の高まりが、次の単純接触効果の高まりを呼ぶという連鎖になっています。
鬼滅の刃は、内容が面白いことがヒットの前提にあるにしても、みんなが繰り返し目したことで好きになるという現象が起こり、突き抜けたヒットになったと分析できます。
知っているものは好き、知らないものは嫌い
人は、知ってるものは好きと感じ、知らないものは嫌いと感じる心理傾向をもっています。
この心理傾向は、単純接触効果による心理反応が当てはまります。
すでに知っていること、慣れ親しんでいるものは、反復した刺激を受けているため、安心・安全で、コントロール感を感じられるので、好きとなります。
知らないこと、よく分からないものは、反復した刺激を受けていないので、不安や危険、コントロール不能感を感じるため、嫌いとなります。
単純接触効果を生物学的に説明
心理学者のザイアンスは、反復されると好きになるという効果は、生物学的に重要な意味をもつといいます。
新しい刺激は恐れる必要がある
生物は、危険の多い世界で生き延びるために、新たに出現した刺激には慎重に反応しなければなりません。
生存可能性を高めるために、新しい刺激に対して、恐れを抱き、場合によっては、逃げ出す必要があります。
未知のものに疑いを抱かない生物が生き延びる可能性は低くなります。
新しい刺激が安全であれば、恐れは薄れる
新しい刺激が安全であると確認できれば、最初にあった恐怖や慎重さは薄れていきます。
心理学者ザイアンスの指摘
ザイアンスは、
単純接触効果が起きるのは、刺激に反復的に接していても何も悪いことが起きなかったためだ
と指摘します。
何も悪いことが起きない刺激は、やがて安全を示す信号に変わります。
安全は良いことなので、反復して経験した安全な刺激を好ましいと感じるようになります。
ザイアンスは、
単純接触効果は、社会的組織や集団の基礎を形成するものであり、心理的・社会的安定性の基礎となる
とまで言っています。
単純接触効果とビジネス
ザイアンスの導き出す答えにのっとれば、単純接触効果は、人が安心・安全な社会を形成するために、本能に埋め込まれたプログラム効果といえます。
単純接触効果は、生物の生存に影響を与えるほど、強い影響力があるということです。
そうれあれば、ビジネスにおいて、単純接触効果を利用しない手はありません。
人は、見慣れているもの、よく知っているもの、記憶に残るものを選びます。
広告をうつにしろ、SNSで情報発信をするにしろ、単純接触効果の狙いは外せません。