このブログ記事を書いている今は2019年12月です。
年賀状を出す季節です。
皆さんも思っていると思います。
「年賀状書く面倒くさい」と。
このSNS時代において、年度末の忙しい時期にお金と時間と労力をかけて、紙で挨拶文書出す文化が続くことに違和感を感じずにはいられません。
にもかかわらず、いざ年賀状をやめることを考えると、メンタルブロックが発動し、やめる決断ができません。
なぜ年賀状を出すことをやめられないのでしょうか。
今回はその理由を心理学と脳科学的視点から考察します。
年賀状をやめられない心理的原因→同調圧力と集団本能
年賀状をやめられない心理的な理由は、人間には、同調圧力と集団本能が備わっているためです。
人は、周囲の動向に自分を合わせずにはいられない心理を持っています。
自分だけ周囲と違う行動をとることに強い抵抗を感じます。
このような心理に陥るのは、同調圧力と集団本能が働くためです。
人は、無意識下で「あなたも私と同じように考えるし、私と同じように行動するよね?普通そうるするよね?」といった無言の圧力をお互いにかけ合っています。
この力を同調圧力といいます。
人は、力の強い方や数が多い方の同調圧力に屈します。
加えて、人は集団本能を持っています。
集団本能とは、何らかの集団に属したいという人間の本能です。
人間は、共同生活を営むことで、外敵の脅威から身を守り、集団の力を使って安全な環境を構築して生き延びてきました(原始時代までさかのぼって考えるとイメージできると思います)。
私たちはその子孫であるため、集団本能が強く備わっており、集団から省かれたくない、集団と同調していたいと欲するのです。
同調圧力と集団本能の相性はとてもよく、セットになって強力な力を発揮します。
人は、同調圧力と集団本能の力により、自分の考えと行動を周囲と合わせずにはいられないのです。
年賀状に当てはめると、例えば、「親戚、職場の人、友人が自分に年賀状を出してくるのだから、自分も年賀状を出すべきだ(同調圧力)。それに、自分だけ年賀状を出さなかったことで相手に何と思われるかを想像すると怖い(集団本能))」といった心情として現れます。
同調圧力を掘り下げて解説
心理学者ソロモン・アッシュの同調実験
同調圧力の存在を理解するのに、ポーランドの心理学者ソロモン・アッシュが行った同調実験が分かりやすいので説明します。
アッシュは、被験者に対し、簡単な視覚問題を出します。
アッシュは、図Aと図Bを被験者に提示します。
※ 図Aには線が1本描かれていて、図Bには長さの違う線が3本描かれています。
※ 図Bに描かれている3本の線の長さは、それぞれ明らかに異なり、1本だけ図Aの線の長さと一致しています。
そして、図Bの3本の線のうち、図Aの線と長さが同じものはどれかを被験者に答えさせます。
この実験のポイントは、被験者のほかに実験の内容を知っている数名のサクラが回答者に仕込まれていることです。
そして、そのサクラたちがそろってわざと違う答えを言います。
その上で、その様子を見ていた被験者が正しい答えを出せるかを調査します。
結果は、被験者にサクラたちがいない状況で答えてもらったときは、95%の被験者が正しい答えを選びました。
しかし、被験者にサクラたちの回答を目にした後で答えてもらったときは正解率が65%に落ちました。
つまり、3割近い被験者が、自分の考えを曲げて、サクラたちの回答に合わせたのです。
この実験は、人間が周囲の動向に流されやすい性質を持つことを証明しました。
このような周囲からの力を同調圧力といいます。
言葉にはしませんが、人は「あなたも私と同じ考えだよね」という圧力を無意識にかけ合っているのです。
そして、人は、同調圧力の力を受け、思わず、周囲の考えに自分の考えを合わせてしまうのです。
同調圧力が働く場面の例
- 会議…まわりの空気を読んで自由な発言ができない。
- 若手社員の雑用…若手が言われなくても掃除などの雑用をすべきというのが共通認識になっている。雑用をしないと上司・先輩から使えないヤツと思われる。
- 飲み会…飲み会の誘いを断ると、付き合いが悪く、協調性がないヤツという印象を持たれる。
- 身だしなみ…規則違反でなくても、茶髪やノーネクタイは「社会人としてどうなの?」という評価を受けやすい。
- SNSのコメント欄…批判コメが連発する中で肯定コメが投稿しにくい 。
- ガラケー…ガラケーを使っていると「まだガラケー使ってるのかよ」という目で見られる。
集団本能を掘り下げて解説
集団本能は、私たちが生存するために必要な本能です。
大昔の人間にとって、一人になること、集団から省かれること、集団から孤立することは死を意味ました。
一人になった人間はライオンやクマなどの猛獣に襲われて死にます。
一人では狩りを成功させることができず、餓死します。
病気やけがをしても援助を受けることができず、そのまま死にます。
人間は集団で生きることによって生存可能性を高めてきました。
進化の過程で、私たちの脳には、集団で生きることが本能として強く刻み込まれてきたのです。
脳は、集団から省かれる状況を察知したり、予測したりすると、生命の危機と認識し、恐怖や危機感などの強い不快信号を私たちに発信します。
私たちは、その不快に耐えられず、周囲と同調せずにはいられない精神状態になるのです。
まとめ
心理学や脳科学的な観点からいうと、同調圧力と集団本能の力により、私たちは年賀状をやめることができません。
繰り返しになりますが、「親戚、職場の人、友人が自分に年賀状を出してくるのだから、自分も年賀状を出すべきだ(同調圧力)。それに、自分だけ年賀状を出さなかったことで相手に何と思われるかを想像すると怖い(集団本能))」といった心情になるからという理由です。
とはいうものの、私は自分から年賀状を出すのをやめました。
年賀状というテーマで、同調圧力と集団本能に支配されるのはばかばかしいと思うからです。
(ただ、年賀状をくれた人には礼儀として返すようにしています)
年賀状をやめるのに抵抗を感じるというメンタルブロックの理由が分かれば、自分のマインドは変えられるものです。
もっとも、年々、年賀状の販売数が減少していることから考えれば、近いうちに、年賀状は出さなくても普通という共通認識になる時代がくることでしょう。
紙のハガキを使うからこそ相手に真心が伝わるんだなどといったこだわりがある以外は、通信技術が発達した現代において、もはや年賀状は時代に合っていない文化ですからね。