前回の記事の続きです。
この記事では、
- 公文書偽造罪と加重収賄罪
- 公印不正使用罪と単純収賄罪・加重収賄罪
の関係の関係を説明します。
① 公文書偽造罪と加重収賄罪の関係
1⃣ 加重収賄罪(刑法197条の3第1項・2項)の場合に、加重収賄罪に当たる不正行為が公文書偽造罪(刑法155条1項)を構成する場合は、加重収賄罪と公文書偽造罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になるとされます。
この点に関する以下の裁判例があります。
虚偽公文書作成・同行使の事実が加重収賄の事実のうち収賄の刑の加重をすべき原因たる不正行為事実に該当する場合には、その収賄と虚偽公文書作成・同行使の各事実は観念的競合になるとした事例です。
裁判所は、
- 原判示第一の(二)の虚偽公文書作成、同行使の事実は、同第一の(一)の加重収賄として認定された事実のうち収賄の刑の加重をなすべき原由たる不正行為事実と同一の事実であり、ただその不正行為が他の罪名に触れる場合であるから、右(一)と(二)との各事実は、刑法第54条第1項前段の一罪として処断すべき行為というべきである
- 従って原判決が右(一)の加重収賄の罪と(二)の虚偽公文書作成、同行使の行為とを別個の罪で併合罪にあたるものとして処断したのは、所論のとおり法律の解釈、適用を誤ったものであり、この誤が判決に影響を及ぼすことは明白であるから、原判決はこの瑕疵により破棄を免れない
と判示しました。
大阪地裁判決(昭和40年12月13日)
裁判所は、
- 被告人Kは、昭和35年4月以降、大阪府南河内郡美原町〇〇所在の美原町農業委員会の主事として、農地法所定の農地の権利移動および転用申請や土地改良法所定の農地の交換分合申請の受理・審査および大阪府知事に対する進達ならびに登記申請手続等の職務に従事していたものであるが、昭和38年3月中旬ごろ、Yから、Yが父から相続した同町〇〇番の田ほか五筆の田畑および畦畔合計6反1畝3歩について、公務員Aが、Bから田畑の相続税・登録税等を免れるため、所有権移転許可申請手続をとることなく、土地改良法による農地交換分合によって所有権を取得したように手続をしてもらいたいと請託されてこれを受け入れ、公務員Aが農業委員会会長名義をもって大阪法務局美原出張所宛の右農地に関する土地改良事業交換分合登記申請書を作成し、その名下に同会長印を押なっして、公務員の押印ある公文書1通を偽造し(※有印公文書偽造罪)、同日、右法務局出張所において、係官に対し、右偽造に係る登記申請書を真正に成立したもののように装って提出して行使し(※偽造有印公文書行使罪)、同係官に同所備付の登記簿原本に交換分合によって右農地の所有権が移転した旨記載させた上(※公正証書原本不実記載罪)、同所に備付けさせて(※不実記載公正証書原本行使罪)、自己らの職務上不正の行為をし、その報酬としてBから3万円の供与を受けて自己の職務に関して賄賂を収受した
という犯罪事実を認め、
- 判示所為中、有印公文書偽造の点は刑法155条1項に、右文を行使した点は同法158条1項・155条1項に、不動産登記簿原本に不実の記載をさせた点は同法157条1項に、右原本を大阪法務局美原出張所に備付させた点は同法158条1項・157条1項に、収賄の点は同法197条の3・1項(197条1項後段)に該当する
- 収賄の行為と有印公文書偽造・同行使・公正証書原本不実記載・同行使の行為とは、一個の行為で数個の罪名にふれ、また有印公文書偽造ないし不実記載公正証書原本行使の行為は順次手段結果の関係にあるから、同法54条1項前段・後段・10条により最も重い加重収賄罪の刑により処断すべく
と判示しました。
2⃣ なお、加重収賄罪ではなく、収賄罪(単純収賄罪:刑法197条1項前段又は受託収賄罪:刑法197条1項後段)の場合には、不正行為は収賄罪成立の要件ではないので、「単純収賄罪又は受託収賄罪」と「公文書偽造罪」等の両罪が成立する場合には、両罪は観念的競合ではなく、併合罪となります。
3⃣ このほか、参考となる判例として、有印公文書偽造罪(印鑑証明書偽造)の教唆犯と贈賄を観念的競合とした判例があります。
大審院判決(大正15年11月2日)
裁判所は、
- 町村役場書記に贈賄をしてその管掌に係る印鑑証明書の偽造を教唆する行為は、一面においては書記を教唆して町村長若しくは町村長代理の名義をもって印鑑証明書を偽造せしめ、他面においては印鑑証明書作成に関する職務を有する書記に賄賂を交付し、よって印鑑証明書の偽造、すなわち職務に関する不正の処分を為さしめたるものにして、1個の行為が2個の罪名に触れる場合に該当するものとす
と判示しました。
② 公印不正使用罪と単純収賄罪・加重収賄罪との関係
公印不正使用罪(刑法165条2項)と単純収賄罪・加重収賄罪との関係を説明します。
1⃣ 公印不正使用罪と単純収賄罪を併合罪とした判例があります。
単純収賄罪をした公務員が公印を不正使用した場合につき、これを牽連犯と主張する上告趣意に対して、裁判所は、
- 印章不正使用と収賄は通常手段結果の関係に立つものとはいえない
と判示し、併合罪とした原判決を維持しました。
2⃣ 公印不正使用が、不正行為の内容であれば、加重収賄罪と公印不正使用罪とは観念的競合になると考えられます。