前回の記事では、正当防衛について説明しました。
今回は、その続きとして、過剰防衛について説明します。
過剰防衛とは?
過剰防衛(刑法36条2項)とは、
正当防衛の程度を超えた防衛行為
をいいます。
反撃し過ぎてしまった正当防衛と考えればOKです。
相当性から逸脱した(やり過ぎてしまった)防衛行為は、正当防衛ではなく、過剰防衛となり、違法行為となります。
たとえば、棒で襲いかかってきた年をとった父に対し、斧で頭をたたいて死亡させた場合は、正当防衛にはならず、過剰防衛となり、違法性が阻却されず、殺人罪が成立します(最高裁判例S24.4.5)。
また、追撃も過剰防衛になります。
判例は、
たとえ当初は防衛行為であっても、最初の一撃によって相手の侵害的態勢がくずれ去った後、引き続き追撃的行為に出て、相手を殺傷したような場合は、過剰防衛にあたる
としています(最高裁判決S34.2.5)。
やり過ぎの反撃行為や追撃は、正当防衛にはならず、過剰防衛となり、違法行為となって殺人罪や傷害罪を成立させます。
過剰防衛は、過剰部分だけなく、行為全体が違法となる
過剰防衛は、行為の過剰部分だけでなく、行為全体が違法になることがポイントです。
先ほどの判例を使って説明すると、
『棒で襲いかかる違法性の度合い』を『斧で反撃する違法性の度合い』から差し引いた部分だけが、過剰防衛部分として違法になる
という考え方ではありません。
『斧で反撃する行為』のまるまる全部が過剰防衛として評価されるのです。
また、判例においては、防衛行為として行った複数の暴行について、
『反撃として複数の暴行を加えた場合において,当初の暴行は正当防衛が認められるとしても、その後に続く暴行が防衛の程度を超えている場合、全体として1個の過剰防衛になる』
としています(最高裁決定H21.2.1)。
複数の反撃行為をした場合で、最初の反撃行為は正当防衛でも、後の反撃行為が過剰防衛であれば、最初の反撃行為をひっくるめて過剰防衛行為として評価されるということです。
過剰防衛は、刑が軽くなることがある
過剰防衛は、適法行為である正当防衛が行き過ぎた結果なので、一般的な犯罪行為と比較して、違法性の程度が軽微であると評価されることがあります。
犯罪行為に直面して、恐怖し、冷静さを欠いた精神状態で、行き過ぎた結果を招いたとしても仕方がないと考えることができるのです。
そのため、違法性の程度が軽微であると認められた過剰防衛は、
- 刑の減軽(刑を軽くすること)
または
- 刑の免除(有罪にはなるが刑罰が科されない)
がされることがあります。
次回
次回は、誤想防衛について説明します。