刑訴法論文(14)~平成30年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ~
平成30年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ
平成30年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
1⃣ 職務質問、所持品検査の適法性
- 所持品検査が捜索に至っているか
- 任意処分の限界
2⃣ 違法収集証拠の証拠能力
- 先行の違法捜査により取得された証拠の証拠能力
問題
法務省ホームページの「平成30年司法予備試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。
答案
設問1
1 下線部①の職務質問に伴う所持品検査は適法か。
⑴ 職務質問とは、警察官が、犯罪に関わりがあると疑う者を停止させて質問することをいう(警察官職務執行法2条1項)。
P及びQが凶器を使用した強盗等犯罪が多発していた場所を警ら中、甲はPと目が合うや、急に慌てた様子で走り出すという不審な挙動をしたという状況下において、甲は「犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」がある者といえるから、Pらの甲に対する職務質問は適法である。
⑵ 所持品検査は捜索に至っていないか。
ア 所持品検査とは、警察官が職務質問を行う過程で、職務質問の対象者が犯罪に関わりがある物を所持している疑いがある場合に、犯罪の予防、鎮圧等を目的とし、その対象者の所持品や着衣などを調べる検査をいう。
所持品検査は明文規定はないものの、口頭による質問と密接し効果を上げるのに必要かつ有効なものであるから、職務質問に付随するものとして任意処分として認められる。
所持品検査は、任意手段たる職務質問に付随して行う以上、原則として所持人の承諾を得て行う必要がある。
もっとも、職務質問は犯罪の予防・鎮圧という行政警察活動として行われるから承諾がなければ一切許されないと解するのは相当ではない。
そこで、捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り許されるが、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するから、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と得られる公共の利益との権衡を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許される。
イ 捜索の本質は強制力を用いて差し押さえるべき物の発見をすることにあり、外部から見えないものでも見える状態にするという意味で、外部から物の状態を五官で覚知する検証とその性質を異にする。
本件所持品検査は、Pが凶器等の危険物を隠している可能性がある甲の腹部のへそ付近を、甲のシャツの上から右手で触るという態様のものである。
そうだとすれば、通常目に見えない範囲のものを強制力を行使して外部から見えるようにするものではないため、捜索には至っていない。
ウ よって、本件所持品検査は、捜索に至っていない。
⑶ 本件所持品検査は、任意処分の限界を超えていないか。
ア 所持品検査が捜索に至っていなくても、被処分者の権利利益の侵害が生ずるおそれがある。
そのため、捜査比例の原則により、必要性・緊急性を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において任意処分は許容される。
イ 甲は、凶器を使用した強盗等犯罪が多発していた場所において、Pと目が合うや急に慌てた様子で走り出すという不審な挙動をしており、Pらの職務質問に対して何も答えずPらを押しのけて歩き出していることから、甲が何らかの犯罪に関わっている疑いが相当程度あった。
その上で、甲は腹部に危険物を隠している可能性があったことから、所持品検査を行う必要性と緊急性は高かった。
Pの所持品検査の態様は、シャツの上から甲のへそ付近を右手で触るという行為にとどまっており、甲の意思を抑圧し、プライバシーを侵害する行為とはいえず、相当性に欠けるものではない。
ウ よって、本件本件所持品検査は、任意処分の限界を超えていない。
⑷ 以上より、下線部①の職務質問に伴う所持品検査は適法である。
2 下線部②の所持品検査は適法か。
⑴ 所持品検査は任意処分の範囲内か。
ア 上記1のとおり、所持品検査は、捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り許されるが、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するから、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と得られる公共の利益との権衡を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許される。
イ 本件につき、「嫌だ」と言って両手で腹部を押さえている甲に対し、Qは甲を羽交い絞めにして甲の両腕を腹部から引き離しており、これは甲の意思を抑圧し、身体の自由を侵害する行為である。
捜索の本質は強制力を用いて差し押さえるべき物を発見をすることにあるところ、Pは甲のシャツの内部手を刺し入れて物を取り出しており、本来外部から見ることができない部分にある物を手で探って取り出している。
また、シャツの内部はプライバシーに対する侵害の程度が大きい部分である。
よって、Pの所持品検査は捜索に至っているといえる。
したがって、本件所持検査は、捜索差押許可状(刑訴法222条1項、218条1項)なくして行われた捜索であり、令状主義(憲法35条)に反する。
⑵ 以上より、下線部②の所持品検査は違法である。
設問2
1 本件覚醒剤の証拠能力は、違法収集証拠として否定されないか。
⑴ 違法収集証拠とは、適正手続の保障(憲法31条)に反し、違法に収集された証拠をいう。
違法収集証拠は、その証拠能力が直ちに否定されるわけではない。
理由は、①違法収集証拠であっても、証拠物それ自体の性質・形状に変異を来すことはなく、証拠物の存在・形状等に関する価値に変わりはないこと、②違法収集証拠であることをもって直ちにその証拠物の証拠能力を否定することは、事案の真相究明(1条)を損ない、被疑者・被告人に適正な処罰を科すことができなくなるおそれがあることが挙げられる。
そこで、違法収集証拠の証拠能力が否定される場合とは、①捜査手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある場合、かつ、②重大な違法捜査で得た証拠を、証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない場合であると解する。
そして、違法捜査から派生して取得された証拠については、先行の違法捜査の違法性が、後行の捜査に大きく影響を与えており、上記①②の要件に照らして、相当でないと認められる場合に違法収集証拠として証拠能力が否定されると解する。
⑵ 本件所持品検査は、実質的に無令状で捜索が行われたのに等しい状況であり、無令状捜索があったからこそ、甲を覚醒剤取締法違反(所持)で現行犯逮捕することができたのであり、先行の違法捜査の違法性が後行の捜査に大きく影響を与えているといえる。
本件覚醒剤は、甲が覚醒剤を所持していたことを証明する重要な証拠であり、直ちに証拠能力を否定することは、甲を覚醒剤取締法違反(所持)で処罰できず、裁判所は無罪を言い渡すことになるので、事案の真相究明を損ない、甲に適正な処罰を科すことができなくなることを意味する。
違法捜査の端緒となった本件所持品検査は、甲を検挙しなければならない必要性・緊急性がある状況の下で、やむを得ず行き過ぎてしまったという側面がある。
また、P及びQが違法な所持品検査の事実を隠蔽し、令状主義(憲法35条)の精神を潜脱する意図があった状況は見当たらない。
しかしながら、甲の所持品検査の場面において、無令状で、嫌がる甲を羽交い絞めにし、シャツの中に手を差し入れ、本件覚醒剤等が入ったプラスチックケースを取り出す行為は、甲の意思を抑圧し、身体の自由及びプライバーを侵害する行為であることから、人権侵害が著しく、これを許容するのは相当でない。
捜査機関が無令状で著しい人権侵害を伴う捜査を行う行為は、①捜査手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある場合、かつ、②重大な違法捜査で得た証拠を、証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない場合に当たると解する。
⑶ 以上より、本件覚醒剤は違法収集証拠であると認められ、証拠能力が否定される。