令和元年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ

 令和元年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 任意同行の適法性

2⃣ 違法な任意同行に引き続いて行われた逮捕、勾留の適法性

問題

 法務省ホームページの「令和元年司法予備試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。

答案

1 下線部の勾留は適法か。

 勾留が適法といえるためには、逮捕前置主義と適正手続の保障(憲法31条)の観点から、先行する逮捕が適法に行われる必要がある。

 先行する逮捕手続の違法性は、後行の勾留手続に影響を与える。

 理由として、①逮捕手続に違法がある場合には、身柄拘束の法的根拠がなくなり、被疑者は直ちに釈放されるべきであり、引き続く勾留請求も当然に許されないこと、②刑事訴訟法は逮捕を準抗告の対象としておらず(刑事訴訟法(以下法令名省略)429条1項)、勾留請求の段階で逮捕に関する違法性も含めて司法審査することが予定されていること、③逮捕に重大な違法が認められる場合、引き続く勾留請求を適法とすることは、司法の廉潔性や将来の違法捜査抑制の見地から妥当ではないことが挙げられる。

2 任意同行及び逮捕は適法か。

⑴ 任意同行は、相手の真の同意に基づく限り、任意処分(197条本文)として許される。

 しかし、実質的に逮捕と同視できる場合は、無令状による逮捕として、令状主義(憲法33条35条)に反し、違法となる。

 任意同行が実質逮捕に当たるか否かの判断は、逮捕は相手方の意思を抑圧し、身体を拘束する処分であることに鑑み、相手方の意思の抑圧と身体の自由の拘束があったか否かによるべきである。

 具体的には、任意同行を求めた時間、場所、相手の反応、任意同行の態様等を総合して客観的に判断する。

⑵ 本件は、午後3時頃という一般人であれば、仕事に疲れて家に帰って休みたいと思うのが通常の深夜の時刻である。

 路上という場所も、周囲の人々の目があることから仕方なく警察の言うとおりにするという判断に傾きやすい場所といえる。

 警察官4名で甲を取り囲んでパトカーに乗車させようとしているが、甲はパトカーの屋根をつかんで抵抗しながら「俺はいないぞ」と言って任意同行に応じない意思を示している。

 甲をパトカーに乗せる態様は、Qが甲の片腕をつかんで車内から引っ張り、Pが背中を押し、甲を後部座席中央に座らせ、QとPが甲の両側に甲を挟んで座るというものである。

 これら一連の事情は、任意同行に応じないという甲の意思を抑圧し、甲の身体の自由を拘束する態様であったといえる。

 よって、本件任意同行は、実質的に逮捕に当たるといえる。

 したがって、本件任意同行は、無令状で行った逮捕行為であり、令状主義に反し、違法である。

⑶ 本件任意同行の後、甲が犯人であるというVの証言や甲発見時の状況を疎明資料として適法に発付された通常逮捕状(199条1項)により、甲は逮捕されている。

 通常逮捕自体は適法であるが、その前段階の任意同行が実質逮捕の違法であるので、本件逮捕は違法となる。 

3 もっとも、逮捕の違法性は重大といえるか。

⑴ 先行する逮捕が違法であったとしても、逮捕の違法が軽微であった場合にも常に勾留が違法となると解するのでは、事案の真相究明(1条)を損ない、被疑者・被告人に適正な処罰を科すことができなくなることから妥当ではない。

 そこで、身柄拘束時に緊急逮捕(210条1項)の要件を満たし、かつ、203条以下の身体拘束の時間制限内に検察官への事件送致、勾留請求がなされた場合には、その違法は令状主義(憲法33条35条)を潜脱するような重大な違法はないものとして、勾留は適法と解すべきである。

⑵ 緊急逮捕の要件を満たすか。

ア 本件では、甲は、本件事件が発生した令和元年6月5日午後2時からわずか12時間ほどしか経っていない近接した時間に、犯行現場から8キロメートルしか離れていない近接した場所で、本件事件の被害品であるVのクレジットカードを所持していた。

 その上で、甲は、本件事件の犯人と人相及び着衣が酷似していたのであるから、甲が本件事件の犯人であることが強く推認できる。

 よって、甲が「罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合」といえる。

 甲の嫌疑が濃厚であることから、甲の逃走を防止し、証拠を保全するために、甲を逮捕する「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない」場合に当たる。

 本件事件は、法定刑の長期が拘禁刑10年の窃盗罪(刑法235条)であるから、「長期3年以上」の罪である。

イ 緊急逮捕後は、「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない」。

 本件につき、甲の実質逮捕と見なされる任意同行が開始されたのが令和元年6月6日午前3時5分であり、通常逮捕状の請求(199条2項)が行われたのが同日午前8時であることから、実質逮捕の任意同行から約5時間後に通常逮捕状の請求が行われたことになる。

 通常逮捕状を請求するための疎明資料の準備、逮捕状請求書の準備に相当程度時間を要することを踏まれば、緊急逮捕の場合でも同程度の時間を要すると考えられ、「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続」が行われているといえる。

ウ よって、緊急逮捕の要件を満たしている。

⑶ 身体拘束の時間制限内に検察庁への事件送致、勾留請求がなされているか。

 甲の実質逮捕と見なされる任意同行が開始されたのが令和元年6月6日午前3時5分であり、H地方検察庁検察官に本件事件が送致されたのが同月7日午前8時30分であることから、実質逮捕から検察庁への事件送致が48時間以内(203条1項)になされている。

 そして、同日午後1時に甲の勾留請求が行われているので、事件受理から勾留請求までの24時間以内の時間制限(205条1項)、実質逮捕から勾留請求までの72時間の時間制限(205条2項)のいずれも守られている。

 よって、身体拘束の時間制限は守られている。

⑷ したがって、本件逮捕は緊急逮捕の要件を満たすことから、その違法性は重大とはいえない。

4 以上より、本件逮捕は違法であるが、緊急逮捕の要件を満たすため、令状主義(憲法33条35条)を潜脱するような重大な違法ではないことから、下線部の勾留は適法となる。

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