刑訴法論文(20)~令和6年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ~
令和6年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ
令和6年司法予備試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
- 犯罪性向などの被疑者の悪性格から犯罪事実や故意を立証することの適法性
問題
法務省ホームページの「令和6年司法予備試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。
答案
設問1
1 甲が事件①の犯人であることを、事件②の犯人が甲であることを推認させる犯人性立証のための間接事実として用いることはできるか。
これを認めることは、甲の犯罪性向から別の犯罪について甲が犯人であることを推認することになる。
犯人性の証明には厳格な証明を必要とし、犯罪性向などの被疑者の悪性格から犯罪事実を立証する証拠は証拠能力が認められないことから問題となる。
被疑者の犯罪性向から他の犯罪も行ったと推認することは、何らの根拠もない人格的評価により犯罪を認定することに繋がり、法律的関連性に問題があり、裁判官に対して不当な偏見を生じさせ、誤った判断を招く危険性がある上、この危険を回避するために当事者が被疑者の犯罪性向の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じ、争点が拡散するおそれがある。
よって、原則として、被疑者が実行した犯罪の性向を根拠にして他の犯罪を犯したことを推認させる間接事実の証拠を採用することはできないと解する。
もっとも、悪性格立証を介在せずに犯人性を推認できる場合は、誤った判断に至る危険性も争点拡散のおそれもない。
そこで、客観的根拠の乏しい人格的評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められる場合、すなわち、被疑者の行った各犯行が、顕著な特徴を有し、各犯行において手段や手口が一致しているなど相当程度類似する場合には、法律的関連性が認められ、例外的に、被疑者が他の犯罪を行ったことを推認させる間接事実として用いることができると解する(最高裁判決 平成24年9月7日)。
3 自然的関連性は認められるか。
本件つき、事件①は強盗罪、事件②は強盗未遂罪と、それぞれ同種犯行であり、甲が事件①の犯人であることは、事件②の犯人が甲であることを推認させるための、必要最小限度の証明力としての自然的関連性は有しているといえる。
4 法律的関連性は認められるか。
事件①②ともに黒色の軽自動車が使用されているが、事件②においては車のナンバーが確認されておらず、黒色の軽自動車はありふれている以上、顕著な特徴とはいえない。
また、犯行態様として、住宅街において、被害者の背後から車で衝突し、助けるふりをして所持品を奪うという特徴が一致しているものの、それは車を使った強盗をしようとした場合に、通常考えつく手段の域を出るものではなく、顕著な特徴とまではいえない。
また、事件②は、事件①と共通する部分はあるものの、事件②は未遂なので、主要な手段や手口が一致しているかまでは判断できない。
よって、法律的関連性は認めらない。
4 以上より、甲が事件①の犯人であることを、事件②の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることはできない。
設問2
1 甲が事件①で金品奪取の目的を有していたことを、事件②でも甲が金品奪取の目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるか。
強盗罪の金品奪取目的を有していたという事実は、同罪の故意を基礎づける刑罰権の存否に関する事実といえるため、厳格な証明を必要とする。
2 犯罪事実が関連していても、類似した事実から被疑者が特定の犯罪を行ったことを推認することは、被疑者の犯罪性向ともいう人格的評価により犯罪を推認することに繋がり、誤判のおそれがある。
もっとも、特定の犯罪を構成する要素を吟味し、被疑者がどのようなことを認識していたのかを検討することにより、他の犯罪でも、犯罪を構成する要素を吟味して、被疑者が同じことを認識していたということが認められるのであれば、単に被疑者の過去の精神状態により他の犯罪の精神状態を推認することにならないので、犯罪性向により事実を認定することにならない。
よって、このような場合は、法律的関連性が認められ、類似した間接事実があることをもって犯罪を構成する要素を推認することは可能であると解する。
2 自然的関連性は認められるか。
事件①と事件②は同種の事件といえるため、自然的関連性が認められる。
3 法律的関連性は認められるか。
同一の者によりなされた犯行態様が類似する事案において、一方では金品奪取の目的を有していたが、他方では金品奪取の目的を有していなかったとは考え難い。
事件①も事件②に犯行態様は、深夜に歩行中の被害者に対し、その背後から軽自動車で衝突して転倒させ、「大丈夫ですか」などと声を掛けながら歩み寄り、バッグを奪う又は奪おうとするものであり、類似している。
事件②では、甲はBのハンドバッグに手を掛けているため、バッグを奪取しようとしていた客観的状況がある。
上記のように犯行態様が類似する状況において、事件①で甲が金品奪取の目的を有していたという事実をもって、甲の悪性格を認める人格的評価を介することなく、事件②でも甲が金品奪取の目的を有していたことを推認することは可能であり、法律的関連性を認めることができる。
4 以上より、事件①で甲が金品奪取の目的を有していたことを、事件②で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができる。