令和2年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ

 令和2年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 取調べの適法性

  • 任意の取調べが「強制の処分」に至った場合は違法となる
  • 任意の取調べが「任意の限界」を超えれば違法となる
  • 取調べにおける「自白法則」の適用
  • 取調べにおける「違法収集証拠排除法則」の適用

2⃣ 「関連性なし」による証人尋問請求の却下

問題

 法務省ホームページの「令和2年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。

答案

設問1

1 下線部①の取調べは適法か。

⑴ 被疑者に対する任意の取調べが「強制の処分」(刑訴法197条1項だたし書)に当たれば、令状主義(憲法35条刑訴法199条1項)に反し、違法となる。

 そこで、「強制の処分」の意義が問題となる。

 強制処分法定主義の趣旨は、国民の権利利益を侵害する捜査については国民が国会を通じて決すべきであるという点にある。

 よって、「強制の処分」とは、国民の権利利益を侵害する捜査手法をいうと解すべきである。

 もっとも、「強制の処分」は、令状主義の下、厳格な手続規定に服するのであるから、かかる厳格な規制を置くにふさわしい、重要な権利利益の侵害のおそれがある手続に限るべきである。

 したがって、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の重要な権利利益を侵害する捜査手法をいうと解する。

⑵ア 本件において、甲の任意同行を求めた時間帯は午後9時頃と遅い時間帯であるが、同行を求めた場所は甲方玄関前で同行を心理的に強制するような場所ではない。

 また、同行に際しても強制力を用いたわけでもなく、甲も真意に基づき同行に承諾している。

 よって、任意同行の時点で個人の意思の抑圧や、身体に対する権利利益の侵害はなかった。

イ 甲に対する取調べは24時間という長時間継続してなされているが、Pは、甲に対して黙秘権や取調室からいつでも退去できる旨の権利告知(刑訴法198条2項)をしてること、P及びQは甲に食事を与えて休憩をとらせていることから、黙秘権や供述の自由が侵害されていたわけではない。

 さらに、取調べ中、取調べ室及びその周辺には、現に取調べを行っている1名の取調官のほかに警察官は待機していないので、監視体制はそれほど強度ではなかった。

 加えて、甲は、時間の経過とともに疲労して言葉数が少なくなっているものの、取調べ中、取調べ中、取調べを拒否して帰宅しようとしたことはなく、仮眠したい旨の申出をしたこともなかったのであるから、取調べについて承諾していたといえる。

 また、取調べ中に有形力が加えられるなどの強制手段が用いられたという事情もない。

 よって、取調べの時点においても、個人の意思の抑圧や、身体に対する権利利益の侵害はなかった。

⑶ 以上より、下線部①の取調べは「強制の処分」に当たらない。

⑷ もっとも、任意の取調べであっても、取調べにより相手方に精神的身体的負担が生じるため、無制限に許容することはできない。

 任意の取調べが限界を超えているか否かは、①事案の重大性、②嫌疑の程度、③被疑者の態度等の諸般の事情を総合考慮して、社会通念上相当といえる範囲を超えたか否かで判断する。

⑸ア 本件犯行は、5件の被害が連続で発生している住居侵入・窃盗事件の関連事件である疑いがある上、本件の被害額は10万円と高額であり、事案は重大である。

イ 本件住居侵入窃盗及び上記5件の犯行のいずれもが、民家の窓のクレセント錠近くのガラスが半円形に割られた上で施錠が外され、室内が物色されて金品が窃取されるという犯行方法が用いられているため、本件と上記5件の住居侵入窃盗の被疑者は同一人である可能性が高い。

 また、Wは甲がX方窓ガラスにガラスカッターを当てていた場面を目撃した旨の供述をしているところ、Wと甲は顔見知りであることから夜間の目撃情報であっても信用性が高いといえる。

 この目撃情報に加えて、本件における窓ガラスの割れ跡がX方窓ガラスに残された半円形の傷跡の形状に類似していることを併せ考えると、甲が本件の犯人と疑われる一定の嫌疑があった。

そのため、不安を感じた住民から犯人検挙を求める要望が多数寄せられている現状で、犯行を否認している甲を長時間取り調べる必要性は高かったといえる。

ウ 甲の取調べは権利告知が行われ、食事、トイレ、休憩がとられ、取調べ室にいるの取調官1名のみであり、監視態様はそれほど強度ではなく、甲の取調べは任意に行われている。

 しかし、取調べは仮眠時間もなく24時間という長時間にわたり行われており、甲の肉体的精神的負担は大きかったといえる。

 かかる負担の大きさは、甲が時間の経過とともに疲労し、言葉数が少なくなっていることからも明らかである。

 さらに、Qは取調べにおいて、自白を獲得する手段として偽計を用いるという不当な手段を用いており、相当性に欠ける。

 かかる態様の取調べがなされれば、たとえ明示的に帰宅の意向を示していなかったとしても、一度仮眠をとるか取調室から退室したいと考えるのが通常である。

 そうだとすると、甲に対する取調べは甲に過大な負担を課すものであり、社会通念上相当と認められる方法・態様・限度にとどまるとはいえない。

⑹ よって、取調べは任意の限界を超えており、違法である。

2 以上より、下線部①の取調べは違法である。

設問2 小問1

1 「自白」とは、自己の犯罪事実の全部又は主要部分を肯定する被疑者・被告人自身の供述である。

 「自白法則」とは、任意性を欠く疑いのある自白は証拠とすることができないという原則をいう(刑訴法319条)。

 その趣旨は、任意性を欠く疑いのある自白は、虚偽の内容を含んでいるおそれがあり、 これに証拠能力を認めると誤判を生み出すおそれがあることにある。

 そのため、「任意性を欠く疑いのある自白」とは、自白が虚偽の自白を誘発するおそれがある情況下でなされた場合の自白であると解する。

 そして、そのような自白は刑訴法319条1項によって証拠能力が否定される。

2 違法収集証拠排除法則は、適正手続の保障、司法の廉潔性の維持、違法捜査抑制の見地から、違法な手法により収集された証拠は、一定の場合に排除すべきであるが、他方で軽微な違法に止まる場合にも証拠を排除すると真実発見(刑訴法1条)を害するから、両者の調和の観点から、捜査手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法捜査抑制の見地から相当でない場合に、証拠を排除するものである。

3 かかる違法収集証拠排除法則の目的は、自白法則が虚偽の自白による誤判を防止すること、供述の自由を保障することを目的としていることと、その目的を異にする。

 よって、両法則は別物であり、択一的な関係になく、二元的に適用されるべきであるから、自白について両法則の双方が適用される場合があると解する。

設問2 小問2

1 甲の自白を録取した供述調書は、自白法則により証拠能力を否定されないか。

 本件取調べは、24時間もの長時間に及び、甲は心身ともに疲弊している状態にあったことに加えて、本件住居侵入窃盗が行われた令和元年11月3日の夜に甲が目撃された旨の偽計が用いられている。

 かかる偽計は、長時間の取調べで甲が疲弊していることと相まって、甲は否認することを諦め、自白に転じるほどの心理的影響を与えるものといえる。

 実際に、甲は徹夜で取調べを受けなければ否認を続けることができたと考えていた。

 最終的に、疲労とQの偽計を用いての取調べが決め手となり、自白に至っていることから、甲の自白は、虚偽自白を誘発し得る状況でなされた自白として不任意自白に当たる。

 よって、甲の自白を録取した供述調書は、自白法則により証拠能力が否定される。

2 甲の自白を録取した供述調書は、違法収集証拠排除法則により証拠能力を否定されないか。

 甲は取調べにおいて権利告知を受けており、黙秘権の侵害はない。

また、上述のとおり、取調べは違法であるものの、強制手段に至っていたわけではなく、高度の必要性の下でわずかに相当性を逸脱し、任意捜査の限界を超えていたに過ぎないし、偽計についても偽計を用いた取調べを禁止する法令はないことから、具体的な法令違反はない。

 そのため、P及びQは、令状主義を潜脱する意図を有していたわけではなく、重大な違法があったとはいえないとも思える。

 しかし、Qは、長時間の取調べにより甲が言葉数が少なくなるほど披露していることを認識しながら、「軽微なうそをつくだけで自白が得られるのではないか。」と考え、意図的に上記偽計を用いている。

かかる偽計は、甲に否認を断念させるほど心理的影響を与える虚言であり、偽計を用いて自白を引き出そうとする捜査手法は、適正手続(憲法31条)に反する。

 そのため、意図的に偽計を用いて自白を獲得した取調べは、憲法や刑事訴訟法の所期する基本原則を没却する重大な違法があるといえる。

 なお、違法収集証拠排除法則は、重大な違法がある場合に、それが令状主義に関しないものでも同法則を適用すべきであるから、「令状主義の精神の没却」は「重大な違法」の例示に過ぎないと解する。

 また、偽計を用いた取調べは違法の頻発性が高く、将来において同様の捜査手法を抑制する必要があり、甲の偽計から獲得した自白を証拠として許容することは、将来の違法捜査抑制の見地から相当ではない。

 よって、甲の自白を録取した供述調書は、違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定される。

設問3

1 裁判所は、Wの証人尋問請求を却下すべきではないか。

⑴ 証人尋問の結果は事実認定に用いられる(刑訴法317条)ことから、証人尋問請求が認められるためには、その証人尋問により得られる結果が本件公訴事実と関連性を有していることが必要である。

 検察官は、X方における甲の犯行と、本件住居侵入窃盗の手口が類似していることから、甲が本件住居侵入窃盗の犯人であることを推認させる事実であるとして、X方における甲の犯行を現認したWの証人尋問を請求している。

 これは類似犯罪を犯していることを立証することによって甲の犯人性を立証する悪性格立証であり、関連性がないとして認められないのではないか。

⑵ 原則として、類似犯罪の犯行について犯人であるという事実は、関連性を欠き、証拠能力が否定されると解する。

類似犯罪事実から犯人性を推認するためには、まずその類似犯罪事実の存在から犯人の悪性格を推認し、その悪性格から被告人の犯人性を推認するという過程をたどるが、この推認は不正確であるにもかかわらず、偏重される危険が高い。

 そこで、類似犯罪事実から犯人性を推認することは、誤判防止の観点から妥当ではなく、原則として関連性を欠くと解する。

しかしながら、類似犯罪事実の態様・手口に際立った特徴が存在し、それが被告事件と相当程度類似するような事情がある場合には、例外的に関連性を肯定できると解する。

なぜならば、手口・態様に際立った特徴があり、それと同じ手口・態様で他人が同種の犯罪を犯すことが経験則上考えにくい場合には、当該手口・態様で犯罪を犯していること自体が、公訴事実も、類似行為を行った者の犯行であることを直接推認させるからである。

⑵ 本件において、類似事実となるX方における甲の犯行と起訴に係る本件住居侵入窃盗とは、犯行手口がガラスカッターを用いてクレセント錠近くの窓ガラスに半円形の傷跡を残す点が共通しており、甲方から押収されたガラスカッターにより形成可能なものであるから、相当程度類似しているといえる。

 しかし、犯行に用いられたガラスを半円形に切ることができるガラスカッターは、一般に流通し、容易に入手可能なものである。

 すなわち、同じガラスカッターを使った別人が同じような犯行をすることは可能といえる。

 また、窓ガラスに穴を開けてクレセント錠を開錠し、室内に侵入して窃盗を行う行為は、しばしば用いられる犯行手口であり、特徴的なものとはいい難い。

 そうすると、甲がX方でこうした行為に着手していたとしても、それだけで本件公訴事実の犯人性を推認することはできない。

2 以上より、本件では検察官の立証趣旨は悪性格立証ということになり、関連性がないとして裁判所は証人尋問請求を却下すべきである。

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