令和3年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ

 令和3年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 捜索差押え

  • 別事件の証拠物の差押えの違法性
  • 被疑事実との関連性を確認しないで包括的に差し押さえる場合の適法性要件

2⃣ 伝聞証拠

  • 刑法322条1項の伝聞法則の例外により、証拠能力が認められる要件
  • 刑訴法321条1項3号の伝聞法則の例外により、証拠能力が認められる要件
  • 非伝聞証拠として証拠能力が認められる要件

問題

 法務省ホームページの「令和3年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。

答案

設問1

1 下線部①の差押えの適法性

⑴ 捜索・差押え現場において、捜索差押許可状が発付された事件ではない別事件の証拠物を差し押さえることはできず、別事件の証拠物の差押えは違法となる。

 憲法35条1項及びこれを受けた刑訴法218条1項219条1項は、差押えは差し押えるべき物を明示した令状によらなければすることができない旨を定めており、その趣旨は、捜索差押の範囲を制限して捜査機関による権限の逸脱濫用を防ぎ、被処分者の人権に配慮する点にある。

 よって、差し押さえる証拠物は、被疑事実と関連性ある証拠物である必要がある。

 被疑事実の関連性の判断に当たり、差押対象物は、被疑事実自体を直接証明するための証拠物であることに限らず、情状や背景事情に関する物も含むと解する。

⑵ まず、「差し押さえるべき物」に記載のある名刺を差し押さえているが、丙組若頭丁が本件被疑事実に関係する者であるかは不明である。

 しかし、甲の供述から本件犯行に乙のほか、丙組が関与している可能性が浮上しており、かつ、乙は丙組幹部に犯行で得た金の一部を貢いでいるという事実が判明している。

 そうすると、本件犯行が組織的な犯罪の一部である可能性が高く、アジトとされるAビル21号室から丙組幹部の丁の名刺が発見された事実は、丙組及び丁が本件犯行と関係する組織や人物である可能性があることを推認させる。

 そのため、本件名刺は、本件被疑事実自体や量刑上重要な情状事実に関連する証拠物になりうる。

 よって、本件名刺の差押えは、本件被疑事実との関連性が認められ、別事件の証拠物の差押えとはならない。

⑶ 以上より、下線部①の差押えは適法である。

2 下線部②の差押えの適法性

⑴ USBメモリ2本について、その場で内容を確認することなく差し押さえているが、上述のとおり、差押えには被疑事実との関連性が必要である。

 そのため、可視性のない電磁的記録媒体について現場で関連性を確認できない場合、被疑事実との関連性を確認することなく、包括的に刺し押さえることが許容されるかが問題となる。

⑵ 刑訴法219条1項が差押えは差し押えるべき物を明示した令状によらなければすることができない旨を定める趣旨は、捜索差押の範囲を制限して捜査機関による権限の逸脱濫用を防ぎ、被処分者の人権に配慮する点にあることに鑑み、差押えに際しては、差押対象物と被疑事実との関連性を確認することが原則である。

 しかし、差押え時点で関連性の明確な証拠物しか差押えできないとすると、有力な証拠を収集できない場合が生じ、真実発見(刑訴法1条)の目的を果たすことができない。

 そこで、①被疑事実に関連する情報が記録されている蓋然性がある場合、②現場で関連性を確認することが技術的・時間的に困難である場合や情報の損壊の危険がある場合には、現場での関連性を確認することなく包括的に証拠物を差し押さえることができる解する。

⑶ 本件犯行は、甲の供述から、乙がVに電話を掛け、そこで得た情報を基に指示を受けた甲が犯行を行うというものであった。

 そして、その乙が得た情報(強盗のターゲットとなる人の氏名と電話番号の名簿データ)が記録されたUSBがアジトに存在することが甲の供述から判明している。

 実際に、甲の供述どおり、アジトであるAビル21号室の捜索では、黒色及び白色のUSBメモリが各1本発見されている。

 そうすると、各USBメモリには、本件犯行の被害者であるVに関する情報が記録されている蓋然性が高いといえる(①充足)。

 また、USBメモリには8桁のパスワードが設定されており、一度でも間違えると初期化される設定となっていることが甲の供述から判明している。

 捜索時、乙は、Pらの問い掛けがないのに、自ら「パスワードは全部『2222』にしていますから、この場で確認してください。」と申し出ている。

 乙の申し出は、甲の供述とはパスワードの桁数が異なり、自らパスワードを申し述べたこを考えると、パスワードの入力を間違いさせて、USBメモリの内容を初期化させるために出た発言である可能性がある。

 そのため、現場で安易にUSBメモリの内容を確認すれば、情報を損壊する可能性があった上、情報を損壊させずに内容の確認するのは技術的にも時間的にも困難であったといえる。

 よって、現場でUSBメモリの内容と本件被疑事実との関連性を確認することは困難であったといえる(②充足)。

 したがって、各USBメモリの内容を確認せずに差し押さえることは許容される。

⑷ 以上より、下線部②の差押えは適法である。

設問2 小問1

1 本件メモ1は、伝聞証拠に当たり、証拠能力が否定されないか(刑訴法320条1項)。

⑴ 伝聞法則の趣旨は、公判廷外の供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述の過程を経て生成されるため、その各過程で誤りが混入するおそれがあることから、反対尋問による真実性の審査を経ていないものついて、原則として証拠能力を否定することで、誤判を防止することにある。

 かかる趣旨から、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受ける「書面」「供述」とは、要証事実との関係で、その供述内容の真実性が問題になるものをいう。

 その判断は、要証事実との関係で相対的に決まる。

⑵ 本件メモ1は、乙が作成したものであり、公判廷外の乙の供述書に当たる。

 本件メモ1の立証趣旨は、「甲乙間において本件住居侵入強盗に関する共謀が存在すること」であり、これは、本件メモ1に記載されている内容を乙が甲に示して説明した事実を立証し、乙が本件犯行を甲と共謀していることを要証事実とするものである。

ア まず、本件メモ1に記載された内容から、上記立証趣旨の事実を証明することが考えられる。

 この場合、本件メモ1の記載内容の真実性が問題となり、本件メモ1は伝聞証拠となる。

 そして、本件メモ1を伝聞証拠として使用する場合、乙の弁護人が不同意(刑訴法326条1項)としているため被告人の供述として刑法322条1項の伝聞法則の例外により、証拠能力が認められる必要がある。

 刑訴法322条1項は、被告人が作成した供述書、又は被告人の供述を録取した書面(供述録取書)で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が、①被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は、②特に信用すべき状況の下になされたものであるときに限りこれを証拠とすることができると規定する。

 本件メモ1は、「被告人が作成した供述書」に当たるので、乙の署名若しくは押印の要件は不要である。

 被告人の「不利益事実の承認」の供述を内容とする書面は、その供述が任意になされたものでない疑いがあるときは証拠能力は認められない(刑訴法322条1項ただし書)。

 本件メモ1は、Vの詳細な情報と犯行態様が記載されており、いずれもVがS銀行の職員を装った乙に電話で伝えた内容と一致し、かつ犯行態様も一致する内容のものであり、乙に不利益な事実の承認を内容とするものである(①充足)(㋐)。

 また、本件メモ1は、乙と甲だけが出入りする乙名義のAビル21号室から押収されており、同室で発見された黒色USBに本件メモ1と同一内容のデータが記録されていることが確認されている(㋑)。

 同データが作成されたのは、本件犯行の1時間10分前である(㋒)。

 甲は、本件メモ1を乙から見せられ、犯行の説明を受けた旨供述する(㋓)。

 よって、本件メモ1は、乙が犯行内容を甲に伝えるために、本件犯行の直前に作成したものと推認でき、本件メモ1に記載された供述内容は、特に信用すべき情況の下になされたものであるといえる(②充足)。

 よって、本件メモ1は、伝聞証拠として使用した場合において、刑訴法322条1項により証拠能力が認められる。

イ さらに、本件メモ1は、乙と甲だけが出入りする乙名義のAビル21号室から押収されて存在する事実を立証することで、証拠能力を認める方法が考えられる。

 上記アのとおり、本件メモ1が同号室から押収されて存在していることは、上記㋐㋑㋒㋓の事情と併せれば、乙が共犯者として本件犯行に関与していることを経験則から合理的に推認できる。

 この場合、本件メモ1の存在自体が問題となり、本件メモ1の記載内容の真実性は問題にならないため、本件メモ1は非伝聞証拠となり、証拠能力が認められる。

2 以上より、本件メモ1は、その記載された内容から本件立証趣旨の事実を証明する場合には伝聞証拠となるが、刑法322条1項の伝聞法則の例外により、証拠能力が認められる。

 本件メモ1の存在自体から本件立証趣旨の事実を証明する場合には、非伝聞証拠となり、証拠能力が認められる。

設問2 小問2

1 本件メモ1は、伝聞証拠に当たり、証拠能力が否定されないか。

⑴ 伝聞証拠に当たるか否かは上記1⑴と同様の基準で判断する。

⑵ 本件メモ2は、甲が自らその供述内容を記載した書面であり、公判廷外の甲の供述書に当たる。

 本件メモ2の立証趣旨は、「甲乙間において本件住居侵入強盗に関する共謀が存在すること」であり、これは、本件メモ2に記載された内容を乙が甲に発言した事実を立証し、乙が本件犯行を甲と共謀していることを要証事実とするものである。

 そこで、乙が甲に対し、本当に本件メモ2の記載内容の発言をしたのかという乙の発信内容の真実性が問題となるため、本件メモ2は伝聞証拠に当たる。

 よって、本件メモは、甲の公判廷外の供述として、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受け、甲の弁護人が証拠とすることに同意しなかった以上(刑訴法326条1項)、証拠能力を欠くことになる。

⑶ もっとも、刑訴法321条1項3号により証拠能力が認められないか。

ア 本件メモ2は、乙の公判において、被告人以外が作成した供述書に当たる(刑訴法321条1項柱書)。

 また、裁判官及び検察官の面前における供述を録取した書面(刑訴法321条1項1号・2号)に該当しないので、刑訴法321条1項3号に該当する書面となる。

 刑訴法321条1項3号により証拠能力が認められるには、同号にある①供述不能の要件、②証拠の不可欠性の要件、③絶対的特信情況の要件の全ての要件を満たす必要がある。

イ 証言の拒絶が「①供述不能の要件」を満たすか。

 乙の公判において甲は証人として出廷しているが、本件メモ2の記載内容及び作成経緯を含め、乙との共謀に関する証言を拒絶している。

 証言拒絶は、同号列挙の供述不能要件として掲げられていないので、供述不能事由になるかが問題となる。

 この点、同号列挙の供述不能要件は、その供述者を裁判所において証人として尋問することを妨げるべき事由を示した例示に過ぎない。

 そのため、供述不能は、尋問不能の場合に限定されず、証言を断固として拒絶した場合や記憶喪失の場合など、広く供述ができない場合を含む。

 証人が一切の供述を拒否すれば、公判期日において供述は全く得られず、この点で供述者死亡などの場合と何ら異なることはないことから、証言拒絶は供述不能に当たる。

 証言拒絶は、証言拒絶の意思が固く、公判期日を改めたり、尋問場所・方法に配慮しても証言する見込みがない場合には、供述不能と認められると解する。

 甲は、乙の公判において、乙及び傍聴人との間に遮蔽措置を講じ、自己の姿が乙や傍聴人に見られないようにしても、「私は、誰からなんと言われようと証言しませんし、今後も証言することはありません」と明確な意思表示をし、証言を拒絶している。

 遮へい措置を講じても証言を拒絶するのは、本件犯行には指定暴力団が絡んでいる可能性があるため、甲は乙らに関する証言をすることで暴力団組織からの報復を受けるなどの不利益が被ることを恐れるためであるとも考えられる。

 甲の証言拒絶の意思は非常に強く、尋問方法や場所に配慮したり、公判期日を変更しても証言の見込みがあるとはいえない状況である。

 よって、甲の証言拒絶は、「①供述不能の要件」を満たす。

ウ 「②証拠の不可欠性の要件」を満たすか。

 同要件は、その証拠が犯罪事実の認定に著しい差異を生じさせるものであるか否かにより判断する。

 甲は、捜査段階及び自己の公判において、本件メモ2について全く供述していない。

 本件メモ2は、甲方から発見されおり、甲乙の共謀を立証する有力な証拠であるところ、本件メモ2以外に甲乙の共謀を立証する証拠は存在しない。

 そのため、本件メモ2は、甲乙の共謀を認定する唯一の証拠であり、かかる証拠の有無により、甲乙の共謀事実の認定に著しい差異を生じさせるといえる。

 よって、本件メモ2は「②証拠の不可欠性の要件」を満たす。

エ 「③絶対的特信情況の要件」を満たすか。

 同要件は、供述時の外部的付随的事情から判断する。

 本件メモ2は、甲作成のものであることは判明している。

 そして、甲方の施錠された引き出し内の甲使用の手帳の令和2年8月4日のページ部分に挟んである状態で発見されている。

 施錠されている机という点は、第三者に見られたり、紛失しないように慎重に管理していてことを窺わせる。

 甲使用の手帳内部から発見された点は、本件メモ2が常に甲の支配下にあり、第三者に本件メモの記載内容が改ざんされる可能性が極めて低いことを窺わせる。

 さらに、本件メモ2の内容は、Vの情報と本件犯行の犯行態様と一致する内容であり、これが本件犯行日と同じ日のページ部分に挟まれていたことは、甲が犯行当日、乙からの伝えられた本件犯行の指示内容を記したものであると考えられる。

 これらの事情から、本件メモ2は、「③絶対的特信情況の要件」を満たす。

⑷ 以上より、本件メモ2は、刑訴法321条1項3号の全ての要件を満たすことから、同号により証拠能力が認められる。

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