刑訴法論文(9)~令和5年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ~
令和5年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ
令和5年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。
この論文からは以下のテーマが学べます。
1⃣ 領置の適法性(ごみの領置)
2⃣ 実況見分調書の証拠能力(説明部分・写真部分の証拠能力)
問題
法務省ホームページの「令和5年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。
答案
設問1
1 捜査①の領置(刑訴法221条)は適法か。
⑴ 捜査①は領置の要件を充足するか。
ア 「領置」とは、捜査機関が、事件関係者などから、任意に証拠物の提出を受けて取得する行為をいう。
領置は、占有取得過程に強制がないため、任意捜査として無令状で行うことができるが、領置した物の占有を継続する点において強制処分としての性質を有する(刑訴法222条1項、123条2項)。
そのため、領置が適法と認めれるためには、領置の強制処分としての性質に見合うだけの権限が領置物の任意提出主体に認められる必要がある。
イ 本件ごみ袋は「遺留した物」といえるか。
「遺留した物」とは、占有者が占有を喪失し、又は占有を放棄した物をいう。
甲は、自らの意思により、本件ごみ袋を投棄し、占有を放棄しているので、本件ごみ袋「遺留した物」に当たる。
ウ アパートの大家は本件ごみ袋の「保管者」といえるか。
「保管者」とは、対象物の所有者から処分権限を与えられている者をいう。
大家はアパートの所有者であり、居住者に対してごみをごみ置場に捨てるように指示しており、大家がごみ置場のごみの分別を確認して公道上にある地域のごみ集積所に搬出することにつき、あらかじめ居住者から了解を得ていた。
そうだとすれば、ごみ置場は、大家が分別の確認をするために便宜上設けたものであり、アパートの居住者は、ごみをごみ置場に置いた時点でその処分権限を大家に委ねたものと評価できる。
甲は同アパートの建物から出てきて同ごみ置場に本件ごみ袋を投棄しており、その時点で大家は甲から本件ごみ袋につき処分権限を与えられたといえる。
よって、アパートの大家は本件ごみ袋の「保管者」に当たる。
エ 大家は自己が保管する本件ゴミ袋をPに「任意提出」している。
オ よって、本件ごみ袋は、甲が「遺留した物」であり、保管者である大家がPに「任意に提出した物」である。
したがって、捜査①は領置の要件を充足する。
⑵ では、捜査①は、任意捜査として許容されるか。
ア 捜査①は、ごみ袋の内容物に対する甲のプライバシーを侵害しうるものであることから、捜査比例の原則(刑訴法197条1項本文)に服する。
そこで、領置の必要性、緊急性を考慮した上、具体的状況の下で相当と認められる限りにおいて、任意捜査として適法となる。
イ 本件事件は住居侵入・強盗殺人未遂事件という重大事件であり、検挙の必要性が高い。
そして、事件発生のわずか7分後である2時7分頃に、事件現場であるV方の近くにあるコンビニエンスストアに設置された防犯カメラの映像には、犯人と酷似した人物が長い棒状の物を手に持ち北西方向に走っている様子が記録されていた。
そして、甲は、そのわずか15分後に、同コンビニエンスストアから犯人と酷似した人物が走っていった方向と同じ北西方向に約1キロメートル離れた場所にあるガソリンスタンドの防犯カメラに映っており、向かいのアパートの建物内に入っていく様子が記録されていた。
そうだとすれば、甲が犯人である可能性が高いといえ、甲の嫌疑が濃厚であったといえる。
加えて、現場の足跡以外に犯人の特定につながる証拠を発見することができていなかったことから、犯人が決定的な証拠を所持しており、これから捨てる可能性が高かったといえる。
したがって、嫌疑の濃厚な甲が投棄した本件ごみ袋の内容物を確認する必要性・緊急性は高いといえる。
一方で、被制約利益として、本件ごみ袋の内容物に対する甲のプライバシーが考えられる。
しかし、アパートでは居住者が捨てたごみ袋を分別のために大家が開封することが予定されており、甲もそれを分かった上でごみ置場に投棄したものと考えられる。
そうだとすれば、ごみ袋の内容物に対する甲のプライバシーの秘匿性は高いとはいえない。
したがって、上記必要性・緊急性に鑑みれば、Pによる領置は相当と認められる。
ウ よって、搜査①は任意捜査として許容される。
⑶ 以上より、捜査①の領置は適法である。
2 捜査②の領置は適法か。
⑴ 搜査②は領置の要件を充足するか。
ア 「遺留した物」とは、占有者が占有を喪失し、又は占有を放棄した物をいう。
甲は、豚汁を食へ終えた後の空の容器を公道上に投棄しており、自己の意思によって占有を放棄したといえる。
よって、本件容器は「遺留した物」に当たる。
イ よって、捜査②は領置の要件を充足する。
⑵ では、任意捜査として許容されるか。
ア 捜査②は、甲のDNAを採取するという甲のプライバシーを侵害しうるものであることから、捜査比例の原則に服する。
そこで、領置の必要性、緊急性を考慮した上、具体的状況の下で相当と認められる限りにおいて、任意捜査として適法となる。
イ 本件事件は住居侵入・強盗殺人未遂事件という重大事件である上、甲の嫌疑は高い状態であった。
そして、捜査①の領置では、犯人が残した足跡の模様と一致するスニーカー1足を発見したものの、同スニーカーは大手ディスカウントショップに大量販売されていたものであり、犯人を特定するに至る証拠にはならなかった。
そのため、犯人を特定する証拠が依然として必要な状況であった。
捜査①の後、司法警察員らは凶器と考えられるゴルフクラブと犯人が着用していたであろうマスクを発見した。
そして、黒色マスクの内側に犯人の血液である可能性が高い血痕が付着していた。
かかる血痕のDNAは判明したが、データベースに一致する情報はなかった。
そこで、甲が犯人であることを特定すべく、甲のDNAを採取し、上記DNAと一致するか調べる必要があった。
そのため、甲が使用し、甲のDNAが付着しているだろう容器を領置する高い必要性が認められる。
一方で、被制約利益として、甲の唾液から個人の重要なプライバシー情報であるDNA型を検出されない利益が考えられる。
Pは、容器に唾液を付着させ、容器を回収して付着した唾液からDNA型を採取するため、司法警察員であることを秘し、ボランティアの一員として炊き出しに参加し、容器の裏側にマークを付け、豚汁を入れて甲に手渡している。
甲が容器に唾液を付着させて公道上に投棄し、Pが回収できる状態にしたことは、Pの秘密裡の働きかけによるものといえる。
捜査②は、実質において、甲をだます方法により証拠物を領置したものであると評価できる。
甲に容器を投棄する意思はあっても、DNA型を提供する意思がなかったことは明らかである。
仮に、甲が自己のDNA型を採取されることを知れば、Pから豚汁の入った容器を受け取ることを拒絶し、容器を公道上に投棄することもなかっただろうから、Pの行為は、甲の意思を抑圧する行為といえる。
よって、領置の必要性、緊急性を考慮しても、①甲をだます方法により本件容器を領置したといえること、②領置は甲の意思を抑圧するものであるといえることを考慮すると、本件領置は任意捜査として認められる相当な方法で行われたとはいえない。
本件領置は、甲の意思を抑圧し、重大なプライバシー侵害を伴うものであることから「強制の処分」(刑訴法197条1項)といえるので、差押許可状(刑訴法218条1項前段)の発付を得て行う必要があった。
⑶ 以上より、捜査②の領置は違法である。
設問2
1 実況見分調書①の証拠能力
⑴ 実況見分調書全体について
ア 伝聞法則の該当性
伝聞法則の趣旨は、公判廷外の供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述の過程を経て生成されるため、その各過程で誤りが混入するおそれがあることから、反対尋問による真実性の審査を経ていないものついて、原則として証拠能力を否定することで、誤判を防止することにある。
かかる趣旨から、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受ける「書面」「供述」とは、要証事実との関係で、その供述内容の真実性が問題になるものをいう。
その判断は、要証事実との関係で相対的に決まる。
実況見分調書①は、Qの公判廷外の供述を内容とする書面であって、Qの観察結果どおりの事実の存在を立証するために用いられるから、伝聞証拠に当たる。
イ 伝聞法則の例外(刑訴法321条3項)の該当性
刑訴法321条3項は、検証調書の証拠能力を認める規定であるところ、検証と実況見分との差異は、強制処分か任意処分かという捜査法上のものにすぎない。
検証調書は、検証者が自己の五感の作用によって事物の存在・状態を観察し、認識した結果を報告する書面であり、一種の供述書であるという性質は、実況見分調書にも同様に当てはまる。
検証は、物・場所等の客観的状況を五感より認識する作用であり、検証調書は、専門的な訓練を受けた者が客観的、技術的に作成するものであり、恣意の入る余地が少ないという性質も、実況見分調書に同様に当てはまる。
かつ、検証の結果は、法廷で検証者の証人尋問をして検証者に口頭で報告させるよりも、それを記載した書面自体を証拠とした方がより正確に報告できるという性質も、実況見分調書にも同様に当てはまる。
よって、実況見分調書についても刑訴法321条3項が直接適用される。
したがって、Qは、公判廷において、実況見分調書①が、自己が正確に観察し、かつ、自己が認識したとおりに正確に記録したものであるという「作成の真正」を証言すれば、刑訴法321条3項が適用され、証拠能力が認められることとなる。
⑵ 甲による説明部分・写真部分について
ア 検証調書(実況見分調書も同様)に添付された図面・写真や検証現場における立会人の指示説明が記載された部分の証拠能力は、それらが検証の結果を明瞭にするために検証の一手段としてなされる限り、検証調書と一体不可分のものとして証拠能力が認められる。
ただし、検証の限度を超えてなされた指示説明が記載された部分の証拠能力については、刑訴法321条3項によって証拠能力は認められず、被告人の供述録取書の証拠能力が認められる方法と同様に、別途刑訴法322条1項の要件を充足する必要がある。
イ 本件における争点は、甲の犯人性である。
実況見分調書①から、立証趣旨である「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能であったこと」が立証されれば、V方玄関ドアの錠は特殊であり犯人以外に解錠できる者は少ないと考えられることから、甲の犯人性が合理的に推認できる。
そのため、立証趣旨を要証事実とすることができる。
ウ かかる要証事実を前提とすると、「このように、ピッキング用具を鍵穴に入れてこうして動かしていくと解錠できます。」という甲の説明部分は、甲に解錠能力があるというQの観察結果を示すものにすぎず、甲の供述内容どおりの事実を立証するために用いられるわけではない。
また、写真部分はQの観察結果を視覚的に明確化するためのものであり、甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を犯行時に解錠したことを立証するために用いられるわけではない。
エ よって、上記甲の説明部分は、実況見分の限度を超えてなされた指示説明とはいえず、検証の結果を明瞭にするために検証の一手段としてなされたものにすぎないといえる。
写真部分も同様に検証の結果を明瞭にするための検証の一手段である。
よって、実況見分調書①は刑訴法321条3項の要件を充足すれば証拠能力が認められる。
⑶ 以上より、Qは、公判廷において、実況見分調書①の「作成の真正」を証言すれば、刑訴法321条3項の伝聞法則の例外により、実況見分調書①の証拠能力が認められる。
2 実況見分調書②の証拠能力
⑴ 実況見分調書全体について
実況見分調書②は、Rの公判廷外の供述を内容とする書面であって、Rの観察結果どおりの事実の存在を立証するために用いられるから、伝聞証拠に当たる。
実況見分調書①と同様、Rが、公判廷において、実況見分調書②が、自己が正確に観察し、かつ、自己が認識したとおりに正確に記録したものであるという「作成の真正」を証言すれば、刑訴法321条3項が適用され、証拠能力が認められることとなる。
⑵ Vによる説明部分・写真部分について
ア 検証調書(実況見分調書も同様)に添付された図面・写真や検証現場における立会人の指示説明が記載された部分の証拠能力は、それらが検証の結果を明瞭にするために検証の一手段としてなされる限り、検証調書と一体不可分のものとして証拠能力が認められる。
ただし、検証の限度を超えてなされた指示説明が記載された部分の証拠能力については、刑訴法321条3項によって証拠能力は認められず、検察官の面前における被害者の供述録取書の証拠能力が認められる方法と同様に、別途刑訴法321条1項2号の要件を充足する必要がある。
イ 実況見分調書②の立証趣旨は「被害再現状況」であり、要証事実は「Vが再現したとおりの犯罪事実の存在」となる。
かかる要証事実を前提とすると、「このようにして、犯人は、右手に持っていたゴルフクラブで私の左側頭部を殴りました。」というVの説明部分は、Vの供述内容どおりの事実を立証するものであり、Vの被害状況の供述と同視できる。
また、写真部分は、Vが実際に被害に遭った状況をSの動作により表現し、それを記録したものなので、Sの供述内容どおりの事実を立証するものであり、Vの被害状況の供述と同視できる。
よって、説明部分及び写真部分は、実況見分の限度を超えてなされた指示説明が記載された部分となり、検察官の面前における被害者の供述録取書の証拠能力が認められる方法と同様に、別途刑訴法321条1項2号の要件を充足する必要がある。
ウ 刑訴法321条1項2号により証拠能力が認められるには、①供述者の署名又は押印の要件、かつ、②供述不能の要件又は③供述の相反性かつ供述の特信性の要件を満たす必要がある。
(ア) 実況見分調書②は、Rが作成したものなので、Vの署名又は押印がない。
よって、Vの説明部分は、「①供述者の署名又は押印の要件」を満たさず、証拠能力が認められることはない。
しかし、写真部分については、写真は撮影・現像の記録過程が機械的操作によってなされることから署名又は押印は不要である。
したがって、写真部分については、②又は③の要件を見たぜば証拠能力が認められる。
(イ) Vは交通事故で死亡しているので、写真部分は「②供述不能の要件」を満たす。
(ウ) よって、写真部分は、刑訴法321条3項が適用され、証拠能力が認められる
⑶ 以上より、Rは、公判廷において、実況見分調書②の「作成の真正」を証言すれば、刑訴法321条3項及び321条1項2項の伝聞法則の例外により、Vの説明部分を除き、実況見分調書全体と写真部分につき証拠能力が認められる。