前回の記事の続きです。
威力業務妨害罪と軽犯罪法1条31号違反の区別
威力業務妨害罪(刑法234条)と軽犯罪法1条31号違反との関係を説明します。
軽犯罪法1条31号は、
他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者は、拘留又は科料に処する
とする規定です。
業務妨害罪と軽犯罪法1条31号違反との関係について述べた裁判例があります。
裁判所は、
- 軽犯罪法1条31号は刑法233条、234条及び95条(本罪及び公務執行妨害罪)の補充規定であり、軽犯罪法1条31号違反の罪が成立し得るのは、本罪等が成立しないような違法性の程度の低い場合に限られると解される
- これを本件についてみると、被告人は、不特定多数の者が閲覧するインターネット上の掲示板に無差別殺人という重大な犯罪を実行する趣旨と解される書き込みをしたものであること、このように重大な犯罪の予告である以上、それが警察に通報され、警察が相応の対応を余儀なくされることが予見できることなどに照らして、被告人の本件行為は、その違法性が高く、「悪戯など」ではなく「偽計」による本罪に該当するものと解される
と述べ、偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立するとしました。
威力業務妨害罪の「威力」と軽犯罪法1条31号違反の「悪戯など」との区別
威力業務妨害罪の「威力」と軽犯罪法1条31号違反の「悪戯など」との区別について言及した裁判例があります。
威力業務妨害罪の成立を否定し、軽犯罪法1条31号違反の成立を認めた裁判例です。
Aは、Bが製材業を営むためA方付近の山林に製材機を搬入しようとしたのに対し、それまでBが同所で製材した鋸くずをBが約束に従い片づけていないため、それがA方の飲料用水に流出するおそれがあるとしてこれを詰問すべくBに「製材機はここからは入れさせぬ、入るなら他から入れ、入っても仕事はさせぬ」などと申し向けたところ、 Bは困惑し、無理に搬入すればAからひどい目に会わされるやも知れないと思い、遂に搬入を中止したという事案です。
裁判所は、
- 客観的にみてAがBに対し、搬入を中止し、製材業務をやめねばならないほどの威力を用いたとは認められない
とし、Bが畏怖したという点については、
- それは全くBの特種の恐怖感に基いた一時的の思い過ごしに過ぎなかったと認めるほかはないのである
- これを要するに、被告人は、あるいは詰責し、あるいは他人を困惑せしむる様な不当なことを申し向けてその業務を妨害したことは認められるが、威力を用いたことはこれを認むるに足る証拠はない
- 客観的に見ていまだAがBの自由意思を制圧するに足る威力を用いたとは認め難い場合には、刑法第234条の業務妨害罪には該当しないけれども、軽犯罪法第1条第31号違反罪が成立する
と述べて威力業務妨害罪の成立を否定し、軽犯罪法1条31号違反の罪の成立を認めました。
この判決から、「威力」との関係で言えば
「人の意思を制圧するに足りない勢力で違法性を有するもの」が「悪戯など」にあたることになる
という理解ができます。