前回の記事の続きです。
業務妨害罪の「業務」は継続性を要する
業務妨害罪(刑法233条後段、刑法244条)の「業務」(妨害される業務)は、ある程度継続性を有するものであることを要し、一回性のものは原則として「業務」に当たりません。
しかし、本来継続して行われるべきものであれば、たまたま継続していなくても業務といい得ます。
また、一回限りのものであっても、それ自体がある程度継続して行われるものは業務として保護されます。
この点を判示した以下の裁判例があります。
大阪高裁判決(昭和49年9月10日)
日本万博博覧会のテーマ館である「太陽の塔」の頭頂部に入り込み、約1時間滞留した行為につき、建造物侵入罪と威力業務妨害(刑法244条)が成立するとしました。
それ自体は一回限りの開催であるがある程度の期間継続された万国博覧会であることから、業務の継続性が認められ、業務妨害罪の「業務」であると認められたものです。
継続性を要求される業務は、本来の業務についてである
継続性を要求されるのは
保護の対象となる本来の業務
についてです。
妨害の対象となった個々の具体的業務が反覆継続されることを要するものではありません。
この点に関し、東京高裁判決(昭和30年8月30日)は、大韓民国青年団支部結成式を妨害した事案に関し、
「仕事の性質上、継続して行うことができないようなものは右法条にいわゆる業務の観念に属しないものというべく、従って、ある団体の結成式というような行事は、その性質上、一回的一時的なものであって、何ら継続的な要素を含まないものであるから、これをもってその団体の業務であるとすることはできない」
として、業務妨害罪の成立を否定しました。
しかしこの判決を批判する見解があり、妨害の対象となった結成式は一回限りのものであったとしても、この結成式は継続性を有する民団支部の業務遂行活動の一環として行われたものであり、 同団体の業務を妨害したものとして業務妨害罪の成立を認めるべきであったとします。
他方、民主社会党結党大会妨害事件に対する東京高裁判決(昭和37年10月23日)は、
「結党大会の開催は一回限りで再度又は継続して開催されるものではないが、これを主催した大会準備委員会の事務は結党準備着手から結党完了まで継続して行われるものである」
との理論構成により威力業務妨害罪の成立を認めています。
この判決に対しては、端的に継続性を有する民社党の業務遂行活動の一環として結党大会が開催された点に着目して業務性を肯認するのが適切であったする見解があります。
行為自体は一回限りのものであるが、継続性を有する本来の業務遂行の一環として行われたものである点に着目して業務性を認めた裁判例
行為自体は一回限りのものであるが、継続性を有する本来の業務遂行の一環として行われたものである点に着目して業務性を認めたと理解できる裁判例として、以下のものがあります。
取材に赴いた新聞記者がカメラを奪取されようとする同僚を救済する行為について業務性を認めた事例です。
裁判所は、
- 現場に業務として取材のため出向いた新聞記者が、同僚新聞記者の撮った写真(フィルム)を装填した写真機を奪取されようとするのを救済すべく協力応援した行為を妨害するときは、業務妨害の罪の成立を免かれない
と判示し、威力業務妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和45年2月29日)
給食センター職員が妨害排除のため警察官に緊急連絡しようとした行為を妨害した事案で、業務妨害罪が成立するとしました。
神戸地裁判決(昭和49年10月11日)
大学当局が学園紛争正常化のために開催した改革結集集会につき、同集会自体の継続性を問題とするまでもなく大学の業務に当たるとした事例です。
裁判所は、
- 継続性の要件は保護の目的である人の社会生活そのものが果して保護に値するか否かを判断する際にはじめて要求されるに留まり、人の社会生活が、例えば会社、大学、一般商店等のように、その社会的存在そのものとして当然保護の目的とされるに値すると見得る場合には個々の業務において継続性をとりたてて問題にする必要はないと解する
として、業務妨害罪の成立を認めました。