刑法(威力業務妨害罪)

威力業務妨害罪(7) ~「『威力を用いて人の業務を妨害する』とは?」を説明~

 前回の記事の続きです。

威力業務妨害の行為

 威力業務妨害(刑法234条)の行為は、

威力を用いて人の業務を妨害すること

です。

「威力を用いて人の業務を妨害すること」の「人」は、業務を行う者(業務主)に限られない

 威力が人に対して直接的に向けられる場合のその「人」とは、業務妨害の被害者(業務を行う者=業務主)に限られないとされます。

「威力を用いて人の業務を妨害すること」の「威力を用いて」とは?

 「威力を用いて」の「威力」とは、

  • 人の意思を制圧するような勢力

    あるいは

  • 犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力

と定義されます。

 この点、参考となる以下の判例があります。

最高裁判決(昭和31年5月29日)

 裁判所は、

  • 刑法234条にいう威力とは、業務遂行の意思を制圧するに足りる不当の勢威一般を指称する

としました。

最高裁判決(昭和32年2月21日)

 裁判所は、

  • 刑法第234条にいう「威力を用い」とは、一定の行為の必然的結果として、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしもそれが直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない

と判示しました。

最高裁判決(昭和47年3月16日)

 裁判所は、

  • 刑法第234条にいう「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力をいうものと解すべきである

としました。

最高裁判決(昭和28年1月30日)

 裁判所は、

  • 刑法第234条の「威力」とは犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解するを相当とするものである

と判示しました。

 「威力」には、

  • 社会的経済的地位・権勢を利用した威迫
  • 多衆・団体の力の誇示
  • 騒音喧騒
  • 物の損壊等およそ人の意思を制圧するに足りる勢力

の一切を含みます。

 暴行・脅迫が「威力」に当たることはもちろんですが、暴行・脅迫に至らない程度のものであっても「威力」が該当し得ます。

 「威力」は、必ずしも相手方に危害を加えることを内容とするものに限られません。

 例えば、電車の前に座り込んで電車が発車できないようにすれば、威力をもって鉄道業務を妨害したものとして、威力業務妨害罪が成立し得ます。

 この例のように、「威圧」的要素が含まれていなくても、「威力」となり得ます。

「威力」に当たるか否かは、客観的に判断され、被害者の主観によって決せられるものではない

 何が「威力」に当たるかは、犯行の日時場所、犯人側の動機目的、員数、勢力の態様、業務の種類、被害者の地位等諸般の事情を考慮し、それが人の意思を制圧するに足るものであるかを客観的に判断すべきであって、被害者の主観によって決せられるべきものではありません。

 被害者の気質の強弱という偶然の要素が実行行為性の有無を左右する結果になるのはおかしなことです。

 なので、判例は、普通人が当該被害者のような事情の下に置かれたならば、その自由意思が制圧されるかどうかによって「威力」に当たるか否かを決定すべきものとしています。

 この点を判示したのが以下の判例です。

最高裁判決(昭和28年1月30日)

 裁判所は、

  • 刑法第234条の「威力」とは犯人の威勢、人数及び四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解するを相当とするものであり、かつ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきものである
  • 業務妨害罪の威力の有無は被害者の主観的条件の如何によつて左右されるべきものではないといわなければならないのである

と判示しました。

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