前回の記事の続きです。
威力業務妨害罪の具体的行為
威力業務妨害罪(刑法234条)の成立が認められた具体的行為について列挙します。
1 耕作を中止させるため危険が身に及ぶべき旨を告げて威嚇した(大審院判決 明治43年2月3日)
2 家屋を明け渡させるため名を修繕にかりて、商家の表に板囲いをして室内を暗黒ならしめた(大審院判決 大正9年2月26日)
3 電車の操縦を妨げるため電車の運転手を殴って傷害した(大審院判決 大正14年2月18日)
4 百貨店の食堂配膳部に蛇20匹をまき散らした(大審院判決 昭和7年10月10日)
5 多数の顧客が飲食中の食堂内で、数人共同して大声で怒鳴り、または怒号喧騒した(大審院判決 昭和10年9月23日)
6 組合員多数の意思により、決議に同意しない者に各種の制裁を課しその業務を妨害すべき旨の決議をした(大審院判決 昭和10年10月25日)
7 競馬場の本馬場に平釘一樽分を撤いた(大審院判決 昭和12年2月27日)
8 種をまき生育中の苗代の畦を決壊した(広島高裁判決 昭和24年9月17日)
9 田植えを妨害するため鍬を振るって威喝し、田植えを不能にした(東京高裁判決 昭和24年10月15日)
10 他の機関区から助勤に来て助役室で待機中の者に対して暴行を加えた(広島高裁判決 昭和24年12月27日)
11 演劇開演の直前舞台に上り演劇を中止させると怒号した(仙台高裁判決 昭和25年2月14日)
12 操業中の織機の運転を停止させるため配電室のスイッチを切断した(大阪高裁判決 昭和26年10月22日)
13 70数名の者がスクラムを組むなどし、工場長の制止を振り切って事務室に乱入し、 同工場長を乱入者の一団と対席させ、その質問に身をさらさせた(最高裁判決 昭和28年1月30日)
14 竪坑巻揚機の窓ロに立ちふさがり、運転手に手を挙げて、機械運転を継続すれば巻上げロープとの接触等により犯人の身体生命に損傷を生じかねない状態にして運転の中止を求めた(福岡高裁判決 昭和29年4月27日)
15 診療所の入口直前に鉄条柵を張りめぐらした(東京高裁判決 昭和29年6月9日)
16 キャバレーの客席で牛の内臓等を焼き、悪臭を充満させた(広島高裁岡山支部判決 昭和30年12月22日)
17 比較的客の出入りの多いタ刻の時間帯に食堂内で大声で怒鳴り、または怒号喧噪した(福岡高裁宮崎支部判決 昭和30年3月23日)
18 農具を携え牛2頭を連れた青年男女数名を率いて老女が耕作中の畑に赴き、その制止を無視して畑を打ち起こし麦まきを強行しようとした(東京高裁判決 昭和31年11月26日)
19 送炭を阻止するため、実力をもって貨車の開閉弁を開放して、同貨車に積載せる石炭をその場に落下せしめて会社の送炭業務を不能ならしめた(最高裁判決 昭和32年2月21日)
20 日教組の組合大会において黒色発煙筒に点火し、燃焼させた(東京高裁判決 昭和35年6月9日)
21 電話による仲介取引業を営む商店内において、電話台のまわりを多数で取り囲み、大声で、怒鳴るなどした(大阪地裁判決 昭和36年6月21日)
22 政党党首の行う政見発表演説会において激しい口調で間断なく野次った(東京地裁判決 昭和36年9月13日)
23 中国経済貿易展覧会会場に掲示された国家主席の写真に生鶏卵を投げつけた(大阪地裁判決 昭和40年2月25日)
24 他人の店舗南側に接近する道路上に、中古商品ケースほか17点くらいの家財道具箱を売物として並べ、右店舗南側に顧客の立入りを不可能ならしめた(最高裁決定 昭和40年9月3日)
25 天ぷら製造業者方店舗へ赴き、同人らが天ぷらを揚げているところへ木の葉・土砂等を天ぷら原料にふりかかるほど縦約2.5メートル、横約1.5 メートルの範囲に振りまいた(福岡高裁判決 昭和41年4月13日)
26 労働組合員が会社車両の車輪を撤去した(東京高裁判決 昭和43年11月28日)
27 労働組合員が、会社所有の車検証とキーを会社側の返還要求を拒否して抑留継続した(東京高裁判決 昭和43年11月28日)
28 組合員が、社長の知らぬ間に、運転手からタクシー会社の営業用車両の車検証を取り上げた(松山地裁宇和島支部判決 昭和43年6月12日)
29 走行中の自動車の直前に飛び出して停車させ、その前に立ちふさがった(福岡地裁小倉支部判決 昭和45年10月19日)
30 日本万国博覧会場のテーマ館である「太陽の塔」頂部に入り込み滞留した(大阪地裁判決 昭和47年2月17日)
31 多数の者が竹や棒を持って線路を横断し、あるいは、軌条と軌条の間を通行した(最高裁判決 昭和47年3月16日)
32 国会内でアジビラをまき、爆竹を鳴らした(東京高裁判決 昭和50年3月25日)
33 総会屋5名が株主総会において怒号した(東京地裁判決 昭和50年12月26日)
34 多衆がテレビスタジオ前でシュプレヒコールを行うなどしてテレビ放送に騒音を混入させた(最高裁判決 昭和51年5月6日)
35 駅のコンコース内で多数の者がデモ行進、座りこみをした(大阪高裁判決 昭和51年10月12日)
36 銀行内に集団で滞留し、預金口座に1人数回にわたり1件の振込金額1円ないし10円ずつ合計242件合計352円の振込をなし、大声で怒鳴るなどした(東京地裁判決 昭和54年2月9日)
37 捕穫したイルカを収容してある仕切網のロープを解き、あるいは、これをナイフで切断した(長崎地裁佐世保支部判決 昭和55年5月30日、静岡地裁沼津支部判決 昭和56年3月12日)
38 弁護士業務にとって重要な書類が在中する鞄を奪取して自宅に持ち帰り、2か月余りにわたって隠匿した(最高裁決定 昭和59年3月23日)
39 在日大使館に押し入り、事務室で怒号し、木刀でカウンター等をたたくなどした(東京地裁判決 昭和62年10月16日)
40 ひそかに、消防長室にある同人のロッ力ー内の作業服ポケットに犬のふんを、事務机中央引き出し内にマーキュロクロム液で赤く染めた猫の死がいをそれぞれ入れておき、翌朝、執務のため室内に入った消防長をして、右犬のふん及び猫の死がいを順次発見させた(最高裁決定 平成4年11月27日)
41 参議院本会議開催中、傍聴席から演壇に向かって靴を投げつけ、大声で叫ぶなどした(東京高裁判決 平成5年2月1日)
42 国民体育大会の開会式進行中に、防犯ブザーを作動させ、トラックに飛び出し、点火させた発煙筒をロイヤルボックス目掛けて投げつけるなどした(仙台高裁判決 平成6年3月31日)
43 国体ソフトボール競技会の開会式進行中に、会場に掲揚された日の丸旗を引き降ろして焼失させた(福岡高裁那覇支部判決 平成7年10月26日)
44 東京都が施行する道路環境整備工事を阻止するため、都職員及び工事車両等の進入路出入口付近に集結し、同所にバリケードを構築するなどした上、職員らの工事区域内への進入を阻止し、工事の着手を宣言してバリケードの撤去作業等に従事中の職員らに対し、鶏卵・旗竿等を投げつけ、消火剤を噴射するなどした(東京高裁判決 平成10年11月27日)
45 インターネット掲示板に、文化センターで開催予定の講座に関し、「一気にかたをつけるのには、文化センターを血で染め上げることです」「教室に灯油をぶちまき、火をつければあっさり終了」などと書き込みをした(東京高裁判決 平成20年5月19日)
46 環境保護団体員を名乗る者が、公海上から航行中の日本船舶に向けて酪酸入りのガラス瓶を圧縮空気式発射装置で発射し、 これを船体に衝突・破裂させて飛散させ、乗組員の顔面等に酪酸を付着させて顔面化学熱傷の傷害を生じさせるとともに、異臭を拡散させるなどして同乗組員らの業務の遂行を著しく困難にさせた(大阪地裁判決 平成22年7月7日)
47 都立高校の卒業式で、開式直前という時期に、式典会場である体育館において、主催者に無断で、着席していた保護者らに対して、国家斉唱のときには着席してほしいなどと大声で呼び掛けを行い、これを制止した教頭に対して怒号し、被告人に退場を求めた校長に対しても怒鳴り声を上げるなどし、粗野な言動でその場を喧噪状態に陥れるなどした(東京高裁判決 平成20年5月29日)
48 あらかじめ内部に放射性物質を含有する土砂を入れ、放射性物質の存在を示す標識及びrRADIoAcTIvE」の文字が印刷されたシールを貼付した容器、緊急保安炎筒等を搭載した「ドローン」と称する小型無人飛行機1 台を遠隔操作し、総理大臣官邸の上空まで飛行させた上、同官邸敷地内に降下させる操作をして同官邸屋上に墜落させ、これを発見した内閣官房内閣総務官室総理大臣官邸事務所庁舎管理担当所長補佐らの正常な庁舎維持管理業務等の遂行を困難にした(東京地裁判決 平成26年2月16日)
49 アイドルグループの握手会を開催中のホールにおいて、隠し持っていた発煙筒に点火して炎及び煙を発生させ、周囲を騒然とさせて握手会を中断させた上、その中止を余儀なくさせるなどして、催行会社の業務に支障を生じさせた(千葉地裁判決 平成29年10月2日)
50 映画「ミンボーの女」に日の丸を冒とくする場面があったとして、映画館のスクリーンをナイフで切った(東京地裁判決 平成5年9月21日)
51 線路内の列車在線検知機の配線を切断し、これに連動する列車信号機に停止信号を表示させ、列車4本を停止させた(東京地裁八王子支部 平成9年7月18日)