前回の記事の続きです。
業務上失火罪と業務上過失致死傷罪との関係
1個の失火行為により、死傷者を伴う火災を発生させた場合には、業務上失火罪(刑法117条の2)と業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)の両罪が観念的競合の関係で成立すると解されます。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
新潟地裁判決(昭和53年3月9日)
工場で気化ガスが爆発し、これに伴う高熱及び爆風により工場の作業員に死傷者を生ずるとともに、工場内の倉庫等の建造物を損壊し、付近の事務所等建造物のシャッターや窓ガラス等を損壊して公共の危険を発生させ、さらに工場内の8棟の建造物を焼損したほか、工場付近に貯蔵されていた製品及び半製品を焼損して公共の危険を生ぜしめたという信越化学爆発事故の事案です。
裁判官は、
- 被告人3名の業務上過失致死傷の点は、それぞれ刑法211条前段、罰金等臨時措置法3条1項1 号に、業務上過失激発物破裂の点はそれぞれ包括して刑法117条の2前段、117条1項、108条、109条1項、110条1項、罰金等臨時措置法3条1項1号、業務上失火の点はそれぞれ包括して刑法117条の2前段、116条1項、2項、108条、109条1項、110条1項、罰金等臨時措置法3条1項1号に該当するところ、以上は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段、10条によりいずれも一罪としてその刑期及び犯情の最も重い甲に対する業務上過失致死罪の刑で処断する
と判示しました。
次回の記事
次回の記事では、重過失失火罪(刑法117条の2)を説明します。