刑法(保護責任者遺棄罪)

保護責任者遺棄罪(5) ~客体④「『飢餓者』は保護責任者遺棄罪の客体(被害者)になる」を説明~

 前回の記事の続きです。

「飢餓者」は保護責任者遺棄罪の客体(被害者)になる

 保護責任者遺棄罪の客体(被害者)は、

老年者、幼年者、身体障害者又は病者

です。

 「飢餓者」が、「病者」として保護責任者遺棄罪の客体に該当することを説明します。

 一般に学説上、飢餓者ないし極度に飢えている者は「病者」に当たるとされています。

 裁判例でも、飢餓者が保護責任者遺棄罪の客体になることを認めています。

大分地裁判決(平成2年12月6日)

 夫と離婚した被告人が、愛人との同棲生活を継続するために、13歳の実の息子を自宅に放置して生存に必要な保護をせず飢餓死させた事案です。

 少年は、幼い頃から緘黙症の症状を呈して他人とはほとんど口をきかず、外出せず自宅にこもるようになっており、ときおり被告人が持参する簡単な食料を食べていたが、被告人が持参しなくなったために死亡の1か月余り前に衰弱、歩行困難等に陥りました。

 裁判所は、死亡の1か月余り前からの不保護を保護責任者遺棄罪の実行行為として認定し、痩せ衰え衰弱し、食物も受け付けず、歩行も困難になった少年に対する保護責任者遺棄致死罪の成立を認めました。

奈良地裁判決(平成23年2月10日)

 被告人(夫婦)が共謀の上、以前から必要な食事を与えず衰弱していた両名の長男(5歳)に対し、医師の診療を受けさせず、わずかな食事を与えるのみで放置し、栄養失調により飢餓死させた事案で保護責任者遺棄致死罪の成立を認めました。

遺棄罪の客体の説明も参照ください

 保護責任者遺棄罪の客体の説明は、遺棄罪の客体の説明が当てはまりますので、以下の記事も参照ください。

遺棄罪(2) ~客体①「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者」を説明~

遺棄罪(3) ~客体②「客体(被害者)である『老年、幼年』『身体障害』とは?」を説明~

遺棄罪(4) ~客体③「客体(被害者)である『疾病』とは?」を説明~

遺棄罪(5) ~客体④「客体(被害者)の要件である『扶助を必要とする者』とは?」を説明~

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