刑法(保護責任者遺棄罪)

保護責任者遺棄罪(6) ~行為①「遺棄・不保護の概念」を説明~

 前回の記事の続きです。

遺棄・不保護の概念

 保護責任者遺棄罪(刑法218条)の構成要件該当行為は、

  • 遺棄すること

    又は

  • その生存に必要な保護をしないこと(=不保護)

です。

  遺棄・不保護の概念についての判例・通説の考え方を説明したものです。

 「遺棄」とは、

場所的離隔を生じさせることにより、要扶助者を保護のない状態に置くこと

をいいます。

 「不保護」とは、

場所的離隔によらずに要扶助者を保護しないこと

をいいます。

 そして、遺棄罪(刑法217条)の遺棄は、

  • 狭義の遺棄(要扶助者を場所的に移転する「移置」のみである)

をいい、保護責任者遺棄罪(刑法218条)の遺棄は、

  • 広義の遺棄(「移置」のほか、要扶助者を危険な状態に置いたままで立ち去る「置き去り」(場所的離隔が生じる)を含む)

をいうと解されます(多数説)。

 その結果、遺棄罪(刑法217条)の対象が

作為犯としての遺棄(移置)だけ

であるのに対し、保護責任者遺棄罪(刑法218条)の対像には、

遺棄(移置)のほかに不真正不作為犯としての遺棄(置き去り)と真正不作為犯としての不保護が加わる

ことになります(作為犯、不作為犯の説明は前の記事参照)。

 遺棄罪(刑法217条)では作為形態だけが処罰され、不作為形態の不作為の遺棄と不保護は保護責任者遺棄罪(刑法218条)でのみ処罰されることになります。

 そして、保護責任者遺棄罪(刑法218条)の不作為の処罰根拠となる作為義務とは、保護責任であると理解することになります。

判例の見解

 以下のひき逃げに関する判例(最高裁判決 昭和34年7月24日)が「刑法218条にいう遺棄には単なる置去りをも包含すと解す」と判示したこと、単なる置き去りに遺棄罪(刑法217条)の成立を認めた例が見当たらないことから、判例の遺棄・不保護の概念の見解は上記説明のとおりであると理解されています。

最高裁判決(昭和34年7月24日)

 ひき逃げの事案で、被告人が運転する自動車に衝突されて約3か月の入院加療を要する重傷を負い歩行困難になった被害者を放置して立ち去った事案です。

 裁判所は、

  • 刑法218条にいう遺棄には単なる置去りをも包含すと解す
  • 自動車の操縦中過失により通行人に約3か月の入院加療を要する歩行不能の重傷を負わしめながら道路交通取締法、同法施行令に定める被害者の救護措置を講ずることなく、被害者を自動車に乗せて事故現場を離れ、折から降雪中の薄暗い車道上まで運び、医者を呼んで来てやる旨申し欺いて被害者を自動車から下ろし、同人を同所に放置したまま自動車を操縦して同所を立ち去ったときは、道路交通取締法違反(被害者救護義務違反)罪のほか要保護者遺棄罪(刑法第218条)が成立する

と判示し、ひき逃げをして被害者を救護することなく放置した行為について保護責任者遺棄罪が成立するとしました。

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