公務執行妨害で警察官の職務行為の適法性が認められた事例⑤
警察官による写真撮影行為の事例
公務執行妨害罪(刑法95条第1項)に関し、警察官による写真撮影行為の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとした事例として、以下のものがあります。
許可条件違反を犯している集団示威運動につき、違法な行進の状態及び違反者を確認するための写真撮影行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
裁判官は、
- 現に犯罪が行なわれ、もしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行なわれるときは、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ばう等の撮影が許容される
と判示しました。
神戸地裁姫路支部判決(昭和37年1月17日)
市条例による集団示威行進の許す条件に反し、蛇行進を行っている際に、司法警察職員が証拠保全のため、その状況を撮影する行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(昭和41年3月24日)
警備情報収集としての集団示威行進に対する写真撮影行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
裁判官は、
- 警察官の警備情報収集は、未だ犯罪や公安を害する事態の具体的に発生するおそれのない場合であっても、警察法2条1項により当然なし得べき職務行為であり、目的の正当性、行為の必要性、行為の相当性の3要件を具備する限り、正当な職務行為である
と判示しました。
東京高裁判決(昭和29年10月7日)、大阪高裁判決(昭和40年3月30日)
逮捕状執行の現場において、警察官が、逮捕状執行の現場の状況を写真撮影する行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
高松高裁判決(昭和46年2月2日)
大型貨物自動車が公道上で庭石を誤って荷台からずり落した事件において、積載制限超過等の道交法違反容疑の証拠資料として、現場の状況を写真撮影する行為の職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
参考事例
窃盗の事案ですが、任意捜査として、銀行内の防犯ビデオに写っていた人物との同一性判断のため、公道上やパチンコ店内で容貌等をビテオ撮影する行為は適法であるとしました。
その他の事例
警察官による職務行為の適法性を認めたその他の事例として、以下のものがあります。
大阪高裁判決(昭和37年11月21日)
酩酊者が、公共の場所で、公衆に迷惑をかけるような著しく乱暴な行動をしているとき、警察官がその行動を制止するため、酩酊者の腕をんで警備詰所に連行する行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
大阪地裁判決(昭和55年6月26日)
変死体の確認・調査のため、警察官が病院に入ろうとした行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
この裁判で、被告人の弁護人は、警察官が行った代行検死(刑訴法229条2項)は、検察官の命令のない違法な検死であり、警察官の職務に違法性があるから、公務執行妨害罪は成立しないと主張しました。
この主張に対し、裁判官は、
- 変死体がある旨の届出があったとの報告を受けた警察署長は、検死規則3条の検察官等に対する通知等の前提として、変死体の存在する現場に赴いてその存在を確認するとともに、変死体発見の年月日時等、同条に掲げられている事項を調査する職務権限を有するところ、本件における警察官の行為は、検死そのものではなく、検死の前提としての変死体の確認・調査であり、正当な職務というべきである
と判示し、警察官の職務の適法性を認めました。
熊本地裁判決(昭和51年10月28日)
現行犯逮捕のため走行中の自動車に飛びついた警察官が、車の停止を求めて拳銃を発射する行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。
東京高裁判決(平成19年8月10日)
現行犯逮捕のため、警察官が車の運転席窓ガラスを警棒でたたき割る行為について、職務の適法性を認め、その職務を妨害すれば、公務執行妨害罪が成立するとしました。