取調べの録音録画とは?
取調べの録音録画とは、
犯罪を犯した被疑者の取調べ状況を録音録画すること
をいいます。
取調べ状況を録音録画することにより、
- 被疑者が取調べのときにどのようなことを言っていたか
- 取調べ官がどのような態度で取調べを行っていたか
などを音声と映像に残すことができ、後々、裁判で被疑者(被告人)の供述内容などについて争いになったときに、事実関係を明らかにする手段になります。
取調べの録音録画の根拠法令と対象事件
取調べの録音録画の根拠法令は、刑訴法301条の2にあります。
そして、刑訴法301条の2で、録音録画の対象となる事件が以下の①~③のとおり定められています。
逮捕又は勾留されている被疑者の取調べで、かつ、
- 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
- 短期1年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
- 司法警察員が送致し又は送付した事件以外の事件(前2号に掲げるものを除く。)
※ 上記①~③に該当する事件であっても、被疑者が逮捕又は勾留されていない場合は、取調べの録音録画の対象となりません。
取調べの録音録画の対象事件の具体例
上記①~③の事件につき、具体的に何の罪名の事件が録音録画の対象事件になるのか、代表的な罪名を列挙します。
- 現住建造物等放火罪(刑法108条)
- 通貨偽造、偽造通貨行使罪(刑法148条)
- 不同意わいせつ致死傷罪(刑法181条)
- 不同意性交等致死傷罪(刑法181条)
- 監護者わいせつ致死傷罪(刑法179条)
- 監護者性交等致死傷罪(刑法179条)
- 殺人罪(刑法199条)
- 身代金目的略取等罪(刑法255条の2)
- 強盗致傷罪(刑法240条)
- 強盗致死罪(刑法240条)
- 強盗殺人(刑法240条)
- 強盗・不同意性交等罪(刑法241条)
- 強盗・不同意性交等致死罪(刑法241条)
- 傷害致死罪(刑法205条)
- 遺棄等致死罪(刑法219条)
- 逮捕等致死罪(刑法221条)
- 危険運転致死罪
- 麻薬特例法違反(覚醒剤などの薬物の密売、密輸入)
ちなみに、これらの事件は、裁判員裁判の対象事件です。
つまり、刑訴法301条の2に規定する
- 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
- 短期1年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
に当てはまる事件とは、裁判員裁判の対象事件でもあります。
なので、
取調べの録音録画の対象となる事件は、裁判員裁判の対象となる事件と重なる
と捉えておけばよいです。
また、
③ 司法警察員が送致し又は送付した事件以外の事件
とは何かというと、
検察官が警察を介さずに独自に捜査を開始した事件(検察独自捜査事件)
をいいます。
検察独自捜査事件として、たとえば、東京地検特捜部が行うような政治家の汚職事件などがあります。
取調べの録音録画が義務とされる法的理由
取調べの録音録画が義務とされる理由は、裁判において、裁判官に対し、取調べの録音録画データの提出が義務づけられる場面があるからです。
根拠法令は、刑訴法301条の2にあり、
『被告人又は弁護人が、その取調べの請求に関し、その承認が任意にされたものでない疑いがあることを理由として異議を述べたときは、その承認が任意にされたものであることを証明するため、当該書面が作成された取調べ又は弁解の機会の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述及びその状況を第4項の規定により記録した記録媒体の取調べを請求しなければならない』
と規定されています。
この意味を平たくいうと、
検察官が作成した被疑者の供述調書の記載内容は信用できないから、取調べの録音録画データを見せろ!
ということです。
裁判における流れを分かりやすく説明すると以下のようになります。
- 検察官が、被疑者の取調べを行って作成した供述調書を犯罪事実を認定する証拠として裁判官に提出しようとする
- それに対し、被疑者または被疑者の弁護人が、「供述調書に書かれている被疑者の供述内容は、被疑者が任意にした供述ではなく、無理やり言わされた供述だ!」などと言って異議を申し立てる
- こうなると、検察官は、その供述調書を作成したときに撮影した取調べの録音録画データを裁判官に提出しなければならなくなる
このように、取調べの録音録画の対象事件については、裁判の進行によっては、検察官が録音録画データを裁判官に提出することが必須になる場面が出てきます。
そのため、取調べの録音録画が義務とされるのです。