前々回と前回の記事では、責任能力(物事の善悪を判断できる能力)について説明しました。
子ども(刑事未成年者)や精神病者(心神喪失者)が犯罪行為を行っても、責任能力がないので無罪になるという話をしました。
今回の記事では、責任能力に加え、責任条件について説明します。
犯罪が成立する条件を突き詰めると、犯罪は、責任能力に加え、責任条件もそわないと成立しません。
責任能力と責任条件は、以下の図のような関係にあります。
責任条件とは?
責任条件とは、
- 犯罪を犯そうとする故意
- 犯罪を犯してしまった過失
- 故意により犯罪を犯すまいとする期待可能性
- 過失による犯罪を回避する期待可能性
のことをいいます。
故意と過失は、心理的要素に枠組化されます。
期待可能性は、規範的要素に枠組化されます。
犯罪が成立するには、故意と過失、期待可能性という処罰条件が整っていることが必要なのです。
犯罪を犯しても、故意と過失、期待可能性がなかったら、無罪になります。
期待可能性とは?
期待可能性とは、
犯行時、犯罪の行為者が適法行為を行うことを期待できること
をいいます。
「適法行為の期待可能性」ともいいます。
期待可能性を犯罪の成立条件とする理由は、
適法な行為を行うことが期待できないような場合においては、違法な行為を故意に行ったとは言えず、犯罪行為を行った責任を追及することはできない
という考え方がとられるからです。
期待可能性がない状況とは、たとえば、
- 他人を殴ること(傷害罪)を強制された状況
- どう考えても自動車事故(過失運転致死傷罪)を避けることができなかった状況(いきなり対向車線からはみ出して突っ込んできた車を避けることができなかったなど)
などがあげられます。
故意責任の原則
刑法38条1項において、「犯罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と規定しています。
これは、
犯罪が成立するためには、犯罪を犯そうとする故意が必要
であることを意味します。
これを、「故意責任の原則」といいます。
犯罪が成立するためには、犯罪を犯す故意が必要というのが、法律の基本スタンスなのです。
そのため、刑法などの刑罰法令は、故意犯(殺人罪、窃盗罪など)が原則という設計になっています。
故意犯が原則であるという前提を構築した上で、例外として、過失犯(過失致死傷罪、過失運転致死傷罪など)を罰するという仕組みになっています。
刑法38条1項ただし書きで、「犯罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と規定しています。
この「特別の規定」とは、
過失犯を罰する規定
を意味しています。
この「特別の規定」=「過失犯を罰する規定」が法律の条文に記載されているときに、過失犯を処罰できるというルールになっています。
たとえば、刑法209条の過失運転致傷罪の条文『過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。』とありますが、この『過失により』の部分が「特別の規定」の部分にあたります。
ちなみに、窃盗罪や殺人罪などの故意犯の場合は、条文に『故意により』とは記載しません。
これは、刑罰法令は、故意犯を原則としているので、わざわざ『故意により』と明記しないためです。
まとめると、刑罰法令は、故意犯が原則、例外的に過失犯を認めるという設計になっているのです。
次回
次回の記事で、処罰条件の故意、過失、期待可能性のうち、故意を深掘りして解説します。