刑法(業務上過失激発物破裂罪)

業務上過失激発物破裂罪を説明

業務上過失激発物破裂罪とは?

 業務上過失激発物破裂罪(刑法117条の2)は、

刑法117条1項激発物破裂罪)の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき

に成立する犯罪です。

 業務上過失激発物破裂罪の構成要件(犯罪の成立要件)は、

  • 業務上必要な注意を怠り、火薬・ポイラーその他激発すべき物を破裂させて刑法108条(現住建造物等放火罪)に記載した物又は他人の所有する刑法109条(非現住建造物等放火罪)に記載した物を損壊すること

   又は

  • 業務上必要な注意を怠り、自己の所有する刑法109条に記載した物又は刑法110条(建造物等以外放火罪)に記載した物を損壊し、よって公共の危険を生じさせること

です。

業務上過失激発物破裂罪の「業務」とは?

 業務上過失激発物破裂罪の刑法117条の2の条文に規定される「業務上必要な注意を怠ったことによるとき」の「業務」の意義について、判例(最高裁決定 昭和60年10月21日)は、

刑法117条の2前段にいう「業務」とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう

と判示しています。

 この判例の事案は、ウレタンフォームの加工販売を行う会社の本社工場が全焼し、工場内にいた同社社長ら7名が死亡した火災事故につき、その出火原因は、同工場内の資材運搬用簡易リフトの補修工事に外部から来ていた溶断工員(被告人B)が鉄板をガス切断器で溶断していた際に落下した火花が、工場内に山積みされていた大量の易燃物であるウレタンフォームの原反等に着火したことであるとして、会社の工場部門の責任者として右工事に立ち会い監視していた被告人Aが、被告人Bとともに、業務上失火罪と業務上過失致死罪刑法211条前段)に問われた事案です。

 裁判官は、

  • 易燃物であるウレタンフォームを管理するうえで当然に伴う火災防止の職務に従事していた被告人Aとしては、右のような過程で火災が発生するかもしれないことを十分に予見しえたから、被告人Aには、被告人Bにウレタンフォームが易燃物であることを告げ、溶断開始に先立って自らこれを移動させるか、あるいは、Bに火花が落ちないように歩み板で覆い尽くさせるなどすべき業務上の注意義務があったのに、何らこのような措置を講じないまま、溶断作業を開始、継続することを許容した過失がある

として、業務上失火罪と業務上過失致死罪の成立を認めました。

裁判例

 業務上過失激発物破裂罪に関する裁判例として以下のものがあります。

高松高裁判決(昭和35年11月16日)

 サルベージ業者が人家近くの作業場において、海中から引き揚げた海没砲爆弾類の解体作業中、魚雷が爆発して多数の負傷者を出した事故の事案です。

 裁判官は、

  • 右作業を巡視し、指導監督する監督船長において、仮に右作業の中止を指示しても中止させることは事実上不可能であったとして、右船長が中止を指示しなかった過失と事故との間に相当因果関係はない

とし、業務上過失激発物破裂罪の成立を否定しました。

福岡地裁小倉支部判決(昭和51年3月22日)

 しゅんせつ船関門海峡においてバケットを操作して海底付近を床掘中、太平洋戦争当時米軍が敷設した機雷にバケットが接触して機雷が爆発し、同船の甲板を損壊するとともに作業員4名が負傷した事故につき、当時の技術をもってしては必ず機雷を発見揚収し得たとはいえないなどとして、工事の統轄責任者、現場監督者らの過失を否定し、業務上過失激発物破裂罪の成立を否定しました。

千葉地裁判決(昭和54年5月11日)

 化学工場で補助冷却装置などを分解掃除中、大量の液化プロピレン及びヘキサンを大気中に噴出爆発させ、工場など12棟を損壊させた上、死者4人などを出した事故につき、工場従業3人の過失の競合により発生したものと認定した、業務上過失激発物破裂罪が成立するとしました。

次回の記事に続く

 次回の記事では、重過失激発物破裂罪を説明します

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